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【ビブリオエッセー】ゆっくりと心をこめて書く手紙 「ツバキ文具店」小川糸(幻冬舎文庫)

 毎日が慌ただしい。特に何をするわけでもないのに目の前の仕事にバタバタと動き回っては、寝るときになって溜息をつく。あぁ、今日も何もできなかった、と。

 ツバキ文具店は鎌倉に昔からある文具店で、文具を売るだけでなく手紙の代書も引き受けている。店主の鳩子はまだ20代。複雑な家庭環境で育ち、先代の祖母に反発して一時は家を出たが、今は鎌倉に戻って真摯に仕事と向き合っている。

 さまざまな事情のある依頼主から頼まれる手紙の代書。その都度、どの便箋が合うのか、どんな文字で書くべきか、インクの色は、切手の柄は…とこだわりぬいた手紙を仕上げる。

 この本を読んで手紙とは心を送るものと再確認した。子供の頃、ポストに手紙を落としたときの緊張した気持ち、恋人からもらったラブレターの幸福感、わが子からもらった「おかあさんありがとう」の文字の誇らしさ。どんなときも手紙は心に訴えてくる。それを知るからこそ、鳩子は代書仕事に手を抜かない。こだわりぬいた道具で心をくだいて言葉を紡ぐ。

 そしてこの文具店の内外にながれる空気感もたまらなく良い。鎌倉という土地のおかげか、ゆったりと時間が流れていく。季節ごとの行事を大切にし、自然と共存しながら毎日を丁寧に暮らしていく。

 実際は、そんな暮らしをしたいと思っていてもなかなか難しく、結局、毎日バタバタして寝る前に溜息をつくだけなのだ。でもせめて、今度、懐かしい友に手紙でも書いてみようか。そんな気にさせる一冊である。

 兵庫県宝塚市 今津雅代48

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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