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【ビブリオエッセー】家族への悔恨を感じながら 「ねじれた家」アガサ・クリスティー著 田村隆一訳(ハヤカワ文庫)

 推理小説は苦手だ。クリスティーの小説も若い頃、ミステリーではない6作品しか読んでいなかった。なかでも心に残っているのは中年の夫婦の心の機微を描いた『春にして君を離れ』と、母と娘の愛憎の物語『娘は娘』である。家族の確執がテーマの小説が好きなのは、私自身が家族に対して拭いきれない悔恨を感じているからだ。

 独身時代は、男手ひとつで私たち5人の子供を育ててくれた父に、思春期から挙式の前日まで反抗し続け、結婚後は優しい夫や3人の子供たちに、思いやりの心で愛情深く接することができなかった。幸い3人ともグレもせず真面目に努力して巣立っていったが、もう一度初めから子育てをやり直せたらと、この年になっても悔やんでいる。

 今春、映画『ねじれた家』が公開され、新聞の映画評で「推理小説らしからぬ内容」とあったので、興味を持って読んでみた。

 タイトルの通り、ねじれた外観の豪邸に住む、ねじれた心の持ち主である大富豪の老人が毒殺された。疑わしきは家族9人と若い家庭教師の10人である。3人の孫以外の7人が、老人に対して何らかのねじれた感情を抱いているという設定だ。

 然るに、現代社会において心がねじれていない人間などいないのでは、と思うのは私だけだろうか。

 この作品は私が生まれた年に出版されたが、まったく時代を感じさせない斬新さがあり、クリスティー自身が自作のベスト10のひとつに選んでいるのも頷ける。

 大阪府東大阪市 S・S69

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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