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【ビブリオエッセー】言葉の力、伝える力 「日本の一文 30選」中村明(岩波新書)

 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」。川端康成の『雪国』から、冒頭の有名な一節だ。この文章の国境は「コッキョー」と読むのか「クニザカイ」なのか。英訳も難しく、日本語の曖昧表現の典型として例示している。国境を越えると自分とは異なる人々の営みがあって、そこは現実を見つめ直す場所なのか。このトンネルは此岸と彼岸を結ぶものか-。

 今まで、小説冒頭の単なる凝った表現としか思っていなかった。作家は小説の始まりから小説の主題へ導こうとしている。作家の言葉の使い方や表現方法にはいろいろな思い、感性や生き方がにじみ出ている。新規な表現は欠かせない小説の手段である。

 この本は気鋭の国語学者が30人の有名作家の小説や随筆から一節を抜き出し、作家が何を思い、何を考えたかを綴っている。実際に作家たちに聞いた話もまじえながら。

 作家は呻吟苦悶(しんぎんくもん)しながら作品を生みだす。その際に言葉の持つ力・伝える力を最大限に活用しようとしている。読者は作家の使う言葉や表現からいろんな場面や情愛を感じ取る。この本で、目から鱗(うろこ)のごとく教えられた。

 最後の引用は武者小路実篤の『友情』からこんな一節。

 「人間にはどうしてこんなに深いよろこびが与えられているのだろう。」

 この平明な文章を、著者は「奔放自在、まさに桁外れの文体」と書く。この作家にしてこの一文あり。「文は人なり」なのだ。なるほど、そうだったのか。ますます多くの人の本が読みたくなった。

 奈良県橿原市 藤原明夫 70

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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