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【ビブリオエッセー】没後75年で発刊 広がる父への思い 「薔薇色のアパリシオン 冨士原清一詩文集成」冨士原清一著 京谷裕彰編(共和国)

 神様は私に嘘をついた。6歳の私は神様を恨んで泣いた。当時、親指を隠して神様にお詣りすれば、父は死なないと聞かされていた私は、その約束を守った。没後75年、今秋発刊された「薔薇(ばら)色のアパリシオン」の著者、冨士原清一は私の父である。

 父は昭和19年9月18日に36歳で戦死し、娘の私は80歳を超えた。6歳で止まってしまった父の記憶はおぼろげで曖昧なものだが、父の書斎には赤い革表紙の洋書が並び、机の前にはボードレールの肖像画がピンで留められていた。いつもいろいろな人が集まり、大声で議論していたが、戦争が激しくなると、彼らはいつの間にか遠のき、時折、憲兵が玄関に立った。

 父は秋に亡くなったが、私たちが父の死を知ったのは翌年の春先。写真がなかったので、遺影は知人が父を描いた鉛筆画だった。

 「薔薇色のアパリシオン」の詩を読むと、目の前に、詩そのままの映像が広がる。

 「正午 羽毛のトンネルの中で盲目の小鳥達は衝突する」で始まる詩は「其処(そこ)に起る薔薇色のアパリシオン 薔薇色の火災は私の美しい発見である 雛罌粟(ひなげし)よ 汝がこの絶望の空井戸のなかに生へてゐて私の発狂せる毛髪の麗しい微笑を聞くのはこのときである このとき天の扉は開いてゐる…私が夢見るのはまたこの雨の下である」で終わる。いつか朗読で聴いてみたい。

 父には大正、昭和にかけての僅かな時間しか与えられなかったが、瀧口修造氏らとともに、日本シュルレアリスムの薔薇色の旗を掲げ、忘却のかなたへと消えていった。父は今も海の底に眠る。

 奈良市 遠山知子 80

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