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【ビブリオエッセー】作家が執筆の場で再読 「大地」パール・バック

 初めて手にしたのは今から40年以上前のこと。部活を引退し、「さて、これからの自分の進路をどうするか」と考え始めた高3の夏の終わりだった。それまでの私は長編小説に及び腰で、挑戦したことはただの一度もなかったのだが、タイトルに惹かれて手に取った。

 『大地』は19世紀末から20世紀初めの中国を舞台に、貧農から身を起こして大地主になった王龍(ワンロン)と一家三代を描いた大河小説。読み進めるとスケールの大きさ、人間が生をつないでいくことのすさまじさ、力強さにぐいぐい引き込まれ、気づいたら4巻を読了していた。あのときの気分を例えるなら、山頂から朝日を臨むようなすがすがしいものだったのを憶えている。

 月日は流れて20年後、日本語教育のため私は中国南京市に赴任した。南京大学近くに住むことになった私は散歩がてらに自転車であちこちを走り回ることが日課となった。ある日、大学構内を歩いていると、作者であるパール・バックが執筆していたとされる洋館を偶然みつけた。

 その瞬間、高3のときの記憶が一瞬にしてよみがえり、「もう一度、ここで読みたい」という衝動にかられた。日本からすぐに送ってもらい、毎週末、『大地』を持って学内の洋館の入り口に腰を下ろし、貪(むさぼ)るように読んだ。

 昔、読んだときと大きく違ったのは小説の中に登場する地名や道、土地が実在するもので、「ああ、あの交差点あたりのことか…」と鮮やかに映像化して読んでいたことだ。「贅沢(ぜいたく)な読書」の経験とともに、私にとっては今も最高の1冊になっている。

大阪府羽曳野市 澤田幸子61

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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