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【ビブリオエッセー】何度読んでも答えが出ない 「高瀬舟」森鴎外

 新学年になると、新しい国語の教科書を先にぱらっと読むことが楽しみだった。高校3年生になり、新しいクラスになっても大体が慣れ親しんだ顔で、先生の話も代わり映えがなく、例年に比べて真剣に国語の教科書をめくっていた。そこに「高瀬舟」が掲載されていた。

 高校受験の時に著者とタイトルを覚えさせられたので見覚えはあったが、あの時の…ぐらいの軽い気持ちで読むことにした。

 高瀬舟とは江戸時代、島流しの刑に処せられた京都の罪人を大阪まで運んだ船のことで、そこに乗ってきた喜助と護送役の庄兵衛の話である。喜助は弟殺しの罪で舟に乗っているのだが、どこか晴れやかで楽しそうなのだ。鼻歌まで歌い出しそうなほどに。

 教科書に全文が掲載できるほど短く、1時間授業の間に読了できるほどなのだが、私はその世界に入ってしまい、ぱらっと読む、では済まなくなった。

 描写が妙に生々しく、「うっ」と目をつぶってしまいそうなほど苦しいのに、喜助をかばいたくなる。病に苦しみ自殺しようとする弟を見た喜助の行動。授業中だというのに涙がこぼれそうになった。これは本当に殺しなのか…。悪いことだったのか…。もしかすると自分も同じ道を選んでしまうのではないか。

 その後、授業で取り上げられたはずなのに内容には全く記憶がない。迷う庄兵衛と同じ気持ちになったが、何度読み返しても答えが出ない。判断は島に着いてから、お奉行様に任せようと思った。

 大阪府河内長野市 川端泉 31

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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