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【理研が語る】細胞を隅々まで見る

連続電子顕微鏡標本上で注目構造を塗り分けした小脳の分子層。構造別に色分けして3D標本を再構築すると、構造間の関連性を知ることができる
連続電子顕微鏡標本上で注目構造を塗り分けした小脳の分子層。構造別に色分けして3D標本を再構築すると、構造間の関連性を知ることができる
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 どんな動物の言葉も理解でき、会話できるドリトル先生(私の愛読書)に憧れた子供時代は、イヌ語を理解しようと何時間も犬に向かって話しかけていた。

 家の中は私が飼っているクモ、アリ、カエル、ヤドカリ、ザリガニなどが歩き回り、障子にはガやチョウのさなぎがぶら下がり、時折、家の中を孵化(ふか)したガがひらひらと飛び回っていた。食料の調達には苦労したが、いつも生き物と接していることが楽しかった。クモもシャクトリムシも、皆その形が素晴らしく美しく、彼らの動きを見ているだけで時間を忘れた。そして私は獣医になった。

 われわれの体を構成するすべての細胞は、人間の日常と同様に、食事や排泄(はいせつ)を繰り返し、年老いて一生を終える。その間にはけがや病気により細胞が障害されることもまた人間と同様である。そして、そうした機能の変化は形態の変化として現れる。

 病理学に進んだ私は、毎日顕微鏡をのぞいて組織や細胞の形態変化を観察し、病気の診断をしている。通常病理学では光学顕微鏡で400倍前後の倍率で観察するが、細胞の中の小さな器官やウイルス粒子など、より小さな構造を見るためにはもっと高い倍率が必要だ。だから、0・1ナノ(1ナノは1ミリの千分の1の千分の1)を識別できる電子顕微鏡(電顕)を使う。しかし、これまでの電顕では0・5ミリ四方以下の小さな標本の限られた範囲しか観察できないという欠点があった。

 そこで広範囲を観察するため、日本電子(JEOL)との連携で始められた新たな電顕の開発プロジェクトに参画した。そして、数ミリ四方の大きな標本を70ナノの厚さにスライスした上で、標本の端から順に数千倍で電顕写真を連続して自動撮影し、つなぎ合わせて1枚の画像に再構成した。この技術により、非常に高い倍率で、広範囲の電顕画像を一度に取得できるようになった。

 何万倍かに拡大された広い肝臓組織の中を隅から隅まで好きなように見て回ることができるのだ。つまり、グーグル地図の電顕版ができたのである。興味の尽きない何という幸せな旅か。同時にネット上にデータを公開することで、世界中の研究者がいつでもどこでも見たい場所を好きな倍率で観察できるシステムも開発された。

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