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【ビブリオエッセー】人生の荒波にもまれた末に ヘッセ新詩抄「さすらいのあと」ヘルマン・ヘッセ、高橋健二訳(新潮社)

 高校時代の一時期、私は奈良県中部の山あいにあった山荘にいた。訪ねてくる人もなく、婆やと二人、孤独だった。

 窓の戸外(そと)は、ざわざわと鳴る雑木林の音。静かだった。町へ、峠を下っていけば学友がいたが、当時、わたしは鬱(うつ)で部屋に閉じこもって、本ばかり読みあさっていた。詩集から小説、エッセーまで。

 いまも残っていて、私の座右の書物となっているのが、ドイツの作家で詩人、ヘルマン・ヘッセの「さすらいのあと」である。

 あれ以来、この歳まで何回この詩集をめくったことか。単行本の表紙は赤くなり、端は破れている。孤独と「さすらいのあと」はよく似合う。

 あの輝かしい青春時代には、ページ最初の「春」をよく開いたが、いつの間にか歳がいって、人生の荒波にももまれて、以後、「花咲く枝」ばかり、繰り返し読んでいる。現在(いま)もこの詩は褪(あ)せない。

 ヘッセが晩年たどりついたであろう人生を、そのままうたっている。

 「花が風に散り、

 枝が実でたわわになるまで、

 心が幼さに飽いて、

 おちつきを持ち

 人生のあわただしい戯れも

 楽しさに満ち、むだではなかったと告白するまで。」

大阪市生野区 鈴本和代76     

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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