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【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(4)心を察してすれちがう恋

「葛飾柴又・寅さん記念館」のオープニング式典で、展示を見る竹下景子(中央)ら。竹下はシリーズの3作品でマドンナを演じた=平成9年11月
「葛飾柴又・寅さん記念館」のオープニング式典で、展示を見る竹下景子(中央)ら。竹下はシリーズの3作品でマドンナを演じた=平成9年11月

 『男はつらいよ』は、車寅次郎の「失恋四十八連発」を描いている。だが寅の恋をたどると、愛の形が少しずつ変わっていくのがわかる。一番多いのは、「愛しあいながらの別離」ないしは「あいまいな別れ」であろう。

 第18作『寅次郎純情詩集』(主なロケ地=長野県)は、ヒロインの綾(京マチ子)が病死する異色の設定だ。娘(檀ふみ)が「たとえひと月でも寅さんという人が傍にいてくれたことで、お母さまはどんなに幸せだったか」と遺志を告げる。寅は寅で綾と「花屋さん」を開きたいと夢見ていたのである。笑いながらの胸キュン編である。

 松坂慶子ふんする芸者ふみと寅の間が相思相愛的なのが第27作『浪花の恋の寅次郎』(主なロケ地=大阪市)。生き別れた弟の死を知って傷心のふみは、寅への気持ちが信頼から愛へ進んでいることもあり、寅の膝を借りて泣き崩れ無心に寝入ってしまう。だが寅は彼女にそっと布団をかぶせて、一歩引き下がる。それが彼の愛であり、それ以上でも以下でもない。

 この作品で山田洋次監督は、江戸っ子コメディアン渥美清と関西喜劇人芦屋雁之助、大村崑たちの違いを際立たせながら、東西の喜劇人を愛情をこめて描いており、さすがという一編である。

 寅の愛が受け身になり、成立しない佳品が第32作『口笛を吹く寅次郎』。寅は旅の途中でお寺の娘朋子(竹下景子)に恋をし、彼女は寅の気持ちに応えてもよい覚悟で、彼が舞い戻った葛飾柴又を訪ねる。離婚歴がある朋子だが「今度結婚するなら寅さんみたいな人」との思いがある。

 だが、その心を察している寅はするりとかわしてしまう。愛するがゆえに決心できないのだ。柴又駅ホームで別れる寅と朋子、それを隣で見ているさくら、それぞれの複雑な思いが観る者の心を揺さぶる。愛のすれちがいを描く演出はみごと。柴又駅ホームは『男はつらいよ』ロケでは多くの名シーンがあることを記憶しておきたい。

 ロケといえば、第8作とともに、この作品は岡山県高梁市で重要部分を撮影している。博(前田吟)の父親(志村喬)の故郷であり、寅さんファンのロケ地めぐりの、柴又に次ぐ「聖地」的位置を占める。

よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。

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