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【理研が語る】新しいことを考えつく“仕掛け” 大谷英之

手作業からコンピューター
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 不思議な現象に感動したわけでも、科学技術にわくわくしたわけでもなかった。学校で勉強したことが無駄にならないとかそんな理由で研究者になろうと小学生の私は決めた。その当時の私にとって、研究者は新しいことを考えつく人であったから、どうすれば新しいことを考えつくかが関心事であった。

 実は30年近くたった今も同じことが関心事の一つである。読者からは、下手の考え休むに似たりとか、考えるより手を動かせなどと指摘されそうである。しかし、長年の思索の時間は研究者としての個性を自分に与えてくれた。新しいものなどなく組み合わせだけがあるという誰かの考えに従えば、現在の私の個性は次の3つとの出合いからなる。それは、タブララサという言葉、寺田寅彦の随筆「化け物の進化」、そして、スーパーコンピューター「京」である。

 まず、タブララサ(tabula rasa)に出合った。この言葉は、生まれたばかりの人間は「白紙」のような状態であり経験によって知識を得るという主張を表している。私には、どんな天才も生まれた後に手に入れる“仕掛け”のおかげで新しいことを考えつくのであり、それが手に入れば自分も研究者になれるはずだという勇気づけになったし、また、“仕掛け”に対する興味を与えてくれた。

 そして、“仕掛け”の具体的な内容を求めていたときに、寺田寅彦の随筆「化け物の進化」を読んで感銘を受けた。“化け物”は不思議な現象を説明するための道具であり、「原子電子」も進化した“化け物”に過ぎないとする彼の切り口は、何が正しい考えかを他者に依存せず自分で決める方法を私に教えてくれた。また、少数の“化け物”が使い回される科学の特徴を浮き彫りにし、自分の求める“仕掛け”もずっと使えて使い回しのきく少数の「正しい考え」をそろえた先にあると考えさせてくれた。

 「京」と出合ったのは、最初の2つの出合いから20年近くたち、自分の“仕掛け”をコンピューター上で再現する構想を立て始めた頃であった。最初の動機は“仕掛け”の正しさを確認することであったが、大量の計算を粛々と実行する、「京」の圧倒的な処理能力は、新しい絵図を描かせてくれた。自分は“仕掛け”の設計図を作ることに専念し、“仕掛け”を動かすのは「京」のようなスパコンに任せればよいのである。

 今は、趣味を仕事に混ぜて、地震・津波等のシミュレーションから防災・減災に役立つ知恵が自動的に創出されるような“仕掛け”を作れないかとわくわくしながら考えている。

 大谷英之(おおたに・ひでゆき) 理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)総合防災・減災研究チーム研究員。今年度より兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科准教授を兼任。現在はデジタル都市の自動構築や設計図面の自動判読に取り組む。

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