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【ビブリオエッセー】取り戻した心の平穏 「武者小路実篤詩集」亀井勝一郎編(新潮文庫)

 「桃栗三年柿八年/だるまは九年/俺は一生。」

       (「桃栗」)

 この詩に触れたのは仕事に行き詰まっていた時だった。一年を単位として循環する業務内容、凝り固まった人間関係、外部の評価、苦情。自分の中で何かが荒れていった。 そんなある日、上司から紹介されたのがこの詩だった。語感の良さに驚いてすぐ詩集を買い求め、読みふけった。それまで詩集なんて手に取ったこともなかったのに、むさぼるように何度も読んだ。 

 どの詩も語感に優れていることはもとより、著者のどこまでも愚直な人生観、外部に対してあけすけでいる態度、それも新鮮だった。

 「まあいゝ、/俺の一生を/何かの役に立てゝ見せる。/ころぶ時があっても。」      (「まあいゝ」)

 以来、仕事で行き詰まるとこの詩集を手に取るようになった。本棚ではなく居間のすぐ手の届くところに置いた。この詩集は私の感情が負の面を見せ始めたとき最大の力を発揮してくれる。ページをめくり、目に入った詩を読む。

 「負けざるものは聖人/負けても精神的に勝つものは勇士」(「自分の好きな人」)

 その作業を数回繰り返すだけでいつの間にか自分の感情の起伏がならされ、心の平穏を取り戻せる。 

 最近では仕事も落ち着き、詩集を手に取る回数も減ったがこの回数自体が精神状態のバロメーターになっていた。私にとって大切な詩集であるが、読む回数が増えているとき、おそらく私は不幸な気持ちなのである。

 奈良市 奈良吾郎 35

     ◇

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