PR

産経WEST 産経WEST

【寅さん50年 男はつらいよを読む-吉村英夫】(5)恋の指南役・車寅次郎

第44作「寅次郎の告白」初日舞台あいさつ。シリーズ終盤、寅次郎(渥美清、中央)は甥の満男(吉岡秀隆、右)の恋を指南するようになる。左は満男のガールフレンド、泉(後藤久美子)=平成3年12月、東京・有楽町
第44作「寅次郎の告白」初日舞台あいさつ。シリーズ終盤、寅次郎(渥美清、中央)は甥の満男(吉岡秀隆、右)の恋を指南するようになる。左は満男のガールフレンド、泉(後藤久美子)=平成3年12月、東京・有楽町

 シリーズも長く続くと、ストーリーの柱である寅次郎の失恋が同工異曲のマンネリズムだと批判が出てきたりして、新趣向が試みられるようになった。寅が若者の恋愛指南をする作品の出現である。

 第20作『寅次郎頑張れ!』(主なロケ地=長崎県)は、「とらや」の下宿人(中村雅俊)に、近所の定食屋で働く娘(大竹しのぶ)とのデートのコーチをする。「おかしな映画」=喜劇を見るべし、との助言が笑わせる。寅自身に恋心がないから気楽である。

 だが第30作『花も嵐も寅次郎』(主なロケ地=大分県)になると事情が少し変わる。ここでは好感を持ち合う三郎(沢田研二)と蛍子(田中裕子)の恋のキューピットを務める。

 蛍子が相手の気持ちを言葉で聞きたいと悩みを打ち明け、寅は「わかってやれよ。あいつが喋れないってのは、あんたに惚れてるからなんだよ」と微妙な男心を教える。ところが恋愛伝授をする寅自身が蛍子に心を寄せ始めるのだ。蛍子の恋が実ると寅は失恋する。あっち立てればこっちが立たず。その矛盾がおかしくて哀しい。

 第35作『寅次郎恋愛塾』(主なロケ地=長崎県)では、司法試験をめざす青年(平田満)が若菜(樋口可南子)を愛しているのを知って手助け。「色恋の道にかけては、俺の前ではお前は、くちばしの黄色いヒヨッコも同然だよ」とタンカを切る。

 しかし、実は寅も若菜が忘れられなくなっているのだ。青年の恋が実れば寅は失恋する。寅の「つらい」気持ちが見る者に伝わってくる。観客は若者の恋愛成就に好感しつつ、寅の失恋にも同情する。心憎いドラマづくりで、シナリオと演出、それに渥美清の名演に堪能する。

 第37作『幸福の青い鳥』(主なロケ地=福岡県)でも寅は、志穂美悦子と長渕剛の恋の応援団を務める。『花も嵐も…』『幸福の…』の若い2人は、ともに共演が縁で実生活でも結婚したことはご承知の通り。

 寅の恋愛指南が、シリーズ最終盤で、妹さくら(倍賞千恵子)の息子、つまり寅の甥っ子である満男(吉岡秀隆)が初恋をする時の応援につながる。シリーズの重要ヒロイン及川泉(後藤久美子)が登場し大きな山場になる。

よしむら・ひでお 映画評論家。三重県の高校教諭を経て、三重大学非常勤講師、愛知淑徳大学文化創造学部教授などを歴任。『完全版 男はつらいよの世界』(集英社)、『松竹大船映画-小津、木下、山田太一、山田洋次の描く〈家族〉』(創土社)など著書多数。津市出身。79歳。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ