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【夕焼けエッセー】初めてのアイロン

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 衝動買いしたワイシャツは綿100%だった。家事をしない私は、綿のシャツが洗濯で皺(しわ)になりやすいことなど知らなかった。遠慮がちに妻に「アイロン頼むわ」と言った2日後、私の部屋には新品のアイロンが置いてあった。

 この年までアイロンなど使ったことがないが、自分の衝動買いが招いた事態だ。私は決心した。アイロンがけに初挑戦だ。

 まずはどういう姿勢で臨むのかがわからない。とりあえず正座する。アイロンを前に居住まいを正していると、いきなり鬼コーチから檄(げき)が飛ぶ。まず水を入れなさい。ランプが消えるまで待ちなさい。早くも私は混乱した。熱くするのになぜ水が要る?家電は使うときにランプがついているものだろうに、消えるまで待てだと?

 恐る恐るシャツにあてると、今度はいきなり湯気をたててシューシュー言い出した。「シューシュー言ってるよ!」と叫んでも、コーチはニヤニヤ笑うだけだ。止めようと思ってそれらしきボタンを押すと、今度は激しくプシューッとうなった。いつか見た人工知能が暴走して人間を襲う映画を思い出しながら、私は額に汗を浮かべていた。

 やがて2カ月がたち、週2回のアイロンがけが私の日課になった。動画サイトという懇切丁寧な新コーチも得た。額に汗はかかず、代わりに鼻歌が出るようになった。そんな私を見てすでに前任者扱いとなった鬼コーチは意味ありげにほくそ笑んでいる。私は思う壺にはまってしまったのかもしれない。

 岩名 進 52 ケアマネジャー 兵庫県川西市

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