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【倒れざる者~近畿大学創設者 世耕弘一伝・第2部】(13)「東條は国を滅ぼす者だ」露骨な選挙妨害で落選の憂き目

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世耕弘一氏が愛用した帽子(近畿大学所蔵)
世耕弘一氏が愛用した帽子(近畿大学所蔵)

 世耕弘一は、軍国主義を翼賛する政治体制に立ち向かい、民主主義を貫こうとしたが、堂々の論陣を張った闘争はたちまち苦境に陥った。17年4月30日に行われた衆議院議員総選挙で、同交会の同志らが東條英機内閣によって目の敵にされ、露骨な選挙妨害に遭ったからだ。

 戦争遂行に協力的な翼賛議会の成立を目指す東條内閣は推薦候補に選挙資金を与えて支援し、非推薦候補には警察などを通じて選挙運動に干渉した。

 その結果、推薦候補381人が当選した一方、非推薦候補の当選は85人。非推薦で戦った同交会の立候補者29人のうち、当選したのは尾崎行雄や鳩山一郎ら9人にすぎない。和歌山2区で出馬した弘一も6329票にとどまり、次点に終わった。大幅に議席を減らした同交会は同年5月14日に解散に追い込まれた。

 戦後、極東国際軍事裁判(東京裁判)に先立ち、設置された国際検察局の調査官に対し、弘一が証言した選挙妨害の実態が記録されている。

 国立国会図書館所蔵の東京裁判に関する尋問調書によると、弘一の支持者は米や肥料の配給が止められたり、弘一への投票は戦争の敗北を意味するといった噂(うわさ)を流されたりした。協力者や支持者は闇商人だとほのめかされ、告発なしに投獄されたほか、弘一の宿舎の出入り口には警備員が配置され、支持者は怖くて訪問することもできなかった。弘一は選挙後、首相の東條が自分を落選させるように和歌山県知事らに命じていたと告げられたという。

 弘一の演説を知らせるポスターを掲示すると逮捕され、演説は事前通告をしていなかったとして停止させられた。支援者によると、弘一は公然と政府の政策を批判したが、演説会は常に立ち会い警官が「中止」を連発して、流会寸前になった。それでも弘一はひるむことなく次の会場に向かうのだが、同じことの繰り返しだった。同交会に参加したある衆議院議員によると選挙事務所には刑事が張り込み、自由に電報も打てないほどだったという。

 このため、弘一の東條嫌いは徹底していた。

 三男の弘昭(後に近畿大学理事長)は戦時中、小学校で覚えた「戦う東條さん」という歌を口ずさんでいると、弘一がこう言って烈火のごとく怒ったのを後々まで覚えていた。

 「東條は、国を滅ぼす者だ」

 弘昭が、この言葉を受けて小学校で「東條さんは悪い人だ」と言ったことがあり、それを伝え聞いた体育教師から思い切り殴られている。

 そんな弘一だったが、23年12月に東條が戦犯として絞首刑となったときはひとり仏壇に向かい、手を合わせて冥福を祈っていた。(松岡達郎)=敬称略

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