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【倒れざる者~近畿大学創設者 世耕弘一伝・第2部】(11)「統制流行憂多」で国の政策批判…特高、憲兵に踏み込まれても主張曲げず

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世耕弘一氏作の「統制流行憂多」が書かれた原稿用紙(近畿大学所蔵)
世耕弘一氏作の「統制流行憂多」が書かれた原稿用紙(近畿大学所蔵)

 昭和14年8月、陸軍大将の阿部信行を首相とする内閣が成立し、10月には価格等統制令が公布された。日中戦争の影響で生活物資が不足したことによる物価高騰を抑えようとしたが、逆に闇取引が横行し、物価の高騰を抑えきれなかったといわれる。

 ドイツ留学でハイパーインフレーションで市民生活が苦しめられた窮状を見た世耕弘一には、この価格等統制令で物価が上がることは許すことのできないことだったとみられ、弘一は当時属していた政友会正統派の機関誌「立憲政友」(15年1月刊行)で「諸事統制廃止之事(しょじとうせいはいしのこと)」と題する文章を発表している。

 ただ、これは国家総動員法に基づく統制経済を批判したとして、刊行直後の1月13日に削除処分を受けている。削除が徹底されたためか、全文は確認されていないが、弘一の生涯を研究する近畿大学名誉教授の荒木康彦が、処分を記録した警保局図書課「出版警察報」第125号に抄録されている一部を見つけている。

 〈物高ければしまつする、高ければ物よけつくる、そこで市場も繁昌し、物の不足も充たされて、公正相場が顔を出す〉

 〈あヽ統制令やめてほし。(中略)けちな統制令けつとばせ、モーロー内閣踏みつぶし…〉

 弘一は、専門分野でもある経済の原理を踏まえ、分かりやすく統制令の廃止を訴えた。

 また、警保局図書課「出版警察報」第128号によると、15年5月31日には弘一作の「統制流行憂多(とうせいはやりうた)」が発禁処分を受けている。

 これも全文削除処分を受けた「立憲政友」の記事と同様の内容だったことから国家総動員法の施行とその他の国策に反対を表明したとして頒布禁止処分になっている。

 〈民苦しめる統制は 忍ぶは難きことなるぞ あれも統制これもぞと 統制ばやりはもう懲(こ)りた 統制止めて商売を 自由市場に建て直せ 時局を救う近道ぞ〉

 〈先ず国動法やめてくれ 履行出来ない法律は 有害無益の法令ぞ 官僚独善こしらへて 無理に通した国動法 このまま呑めば生命取り〉

 戯れ歌に託し、誰もが理解できるように国家総動員法と統制経済を批判している。弘一は1万部を自費出版して政府関係者や国会議員らに配布している。

 言論統制が強化されていった時局を考えると極めて危険な行為だったが、弘一は主張を曲げることなく、貫き通した。果たして特高警察や憲兵が弘一の事務所や自宅を襲い、配布後に残った約5千部が押収されている。

 結局、阿部内閣はこの統制経済の失敗から15年1月14日に総辞職した。(松岡達郎)=敬称略

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