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【夕焼けエッセー】伝えたい想い

 私は寝るのが大好きだ。根っからの出無精で、なんの予定もない休みの前日がたまらなく好きだ。休日は昼まで眠りこけ、ごろごろだらだらと過ごす、至福の時である。しかし、半年前から生活が一変した。休みの度にいそいそと出掛けていく。あの人に会うためだ。

 あの人はわがままだ。食べたいもの、話したいことがさまざまで、いつも私は振り回される。それでも目と目が合い、笑顔が見られたらうれしくなる。夜はダメだ。よからぬことばかり考える。あの人に何かあったら、と想像するだけで泣けてくる。

 その人は私をこの世に存在させてくれた。子供の頃は仕事柄ほとんど家にいず、たまに会えることがとてもうれしかったけれど、どこか恥ずかしくて他愛のない話さえ交わした記憶がない。今思えば、貧しい中で本当に真面目によく働いてくれていた。私は、あの時の時間を取り戻すかのようにあの人に会いに行く。もう自分で歩くことも食事することもできないけれど、82歳? もう十分じゃない? と他人は思うだろうけれど、5年も10年も生きていてほしいと願う。

 人生の終わりは「たられば」の世界だ。私がもっと早く気付いてあげていれば、もし違う病院を選んでいたら、あの時あんなことを言わなければ。1つ大切なことを私はできていない。それをしてしまうと永遠の別れを告げるようでできない。けれど、もう後悔はしたくない。今日は伝えよう。

 「お父さん、ありがとう」

安田みさき(47) 看護師 大阪府東大阪市

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