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【痛み学入門講座】「ハナゲ」は客観的な単位

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 痛みの感じ方は個人差が大きく、同じ刺激を受けてもおのおのの感受性によって程度は異なる。この主観による痛みを客観的に数量化することは極めて難しい。

 現在、痛みの程度を量的に表す尺度として、ビジュアルアナログスケール(visual analogue scale)が世界で広く用いられている。これは、左端を「痛みなし」、右端を「想像できる最も強い痛み=例えば拷問(ごうもん)のような」とした10センチのスケールを患者さんに示し、現在の痛みがどの辺りかを記入してもらう方法である。

 他にも、治療前の痛みを10点として現在の痛みを表す数値評価尺度(pain relief score=PRS)もある。たとえば、ある患者さんでは、受診のたびにPRSを確認すると1点ずつ減少していた。したがって10回目の受診時には0点、極めて良好な治療効果と思われた。しかしである。ある日、涙ながらに「実はまだ6点くらいは痛いんです」と来診。つまり私たち担当医に気を使って意識的に点数を減らされていたのだ。一方で、いつまでたっても10点から減らない人もいる。日常生活動作の改善度からは少なくとも5点以下であろうと判断できるのだが…。よくよく聞いてみると、「点数を減らしたら、きちんと治療してくれないのでは」とのことだった。

 これらの状況から、さまざまな客観的評価法も試みられてきた。一定量の刺激=前額や下腿(かたい)前面などを圧迫する、歯髄(しずい)神経を電気刺激、熱を加えるなど=を与え、痛みを生じる刺激量を測定する方法などである。しかし、これらの方法は個々の痛みに対する感受性を評価することは可能だが、その時点で患者さんが抱えている痛みの程度を把握することはできない。また、その定量性や再現性などから改良すべき点が多い。いずれにしても完全に主観を排除した上での評価は、いまだ不可能といえる。

 余談ではあるが、このような現状を揶揄(やゆ)してか、インターネット上にまことしやかに流されたニュースがある。わが国の『標準化単位認定評議会』において、痛みの単位として「hanage」を用いることが可決された。つまり「鼻の粘膜の感受性は、人体の中で最も個人差が小さい」(?)ことから、「長さ1センチの鼻毛を鉛直方向に1ニュートンの力で引っ張り、抜いた時に感じる痛みを1ハナゲとする」とのことである。さらにこの評議会での決定を受けて『世界知覚認識学会』もこの単位を承認したとしている。ちなみに、足の小指を椅子の角にぶつけたときの痛みは2~3ハナゲ、出産時の痛みは2・5~3・2メガハナゲとなるそうだ(??)。

 -痛みに言語はない、痛みは言語的客観化を拒んでいる(エレイン・スカーリー)(近畿大学医学部麻酔科教授 森本昌宏)

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