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「付け人」に暴力 相撲界小間使い意識脈々と

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 今さらそれを言われても…。関取衆はほとんど皆がそう思うのではないだろうか。

 大相撲でまたも起きた暴力問題。冬巡業先で付け人に暴力を振るった責任を取り、元幕内貴ノ岩(28)=千賀ノ浦部屋=が引退した。日本相撲協会は各部屋の師匠全員を通して全関取に付け人についての緊急指導を行う。19日に関取対象の特別研修を東京都墨田区の両国国技館で実施する。協会側は「付け人は関取の小間使いではない」ことを認識させ、「絶対に暴力を振るってはならず、互いに感謝の気持ちをもって接する」ことを求めるという。

 「絶対に暴力を振るってはならず…」というのは何も相撲界だけの問題ではなく、一般社会でも暴力は排除されるべきで当然の話。しかし、古くから脈々と流れる相撲界の慣習の中で今さら「付け人は小間使いではない」と言われても、関取衆は今後の対応に戸惑うのではないか。

 相撲の世界は番付の世界だ。裸一貫で自分の力だけでのし上がった力士がお金も名誉も与えられる。大相撲ファンも出自も人脈も関係ない、力だけがモノを言う世界だからこそ魅入られる。当然ながら出世によって懐具合も変わる。給与(月給)体系を見れば一目瞭然。横綱は282万円で大関は約235万円、三役は約170万円、幕内は約130万円、十両は約103万円。幕下以下には給与は支払われない。本場所ごとに場所手当(主に交通費)の15万円から7万円が支払われるだけだ。

 今回の暴力問題で殴られた貴大将(23)=千賀ノ浦部屋=は三段目。九州場所では1勝6敗と大きく負け越したが、場所手当は10万5千円だった。当然、普通に生活していても足りるわけがなく、兄弟子の貴ノ岩から小遣いももらっていただろうし、兄弟子がスポンサーから接待を受ける際には末席でご相伴にあずかってもいただろう。付け人は経済的に自立できない。部屋の親方や兄弟子に食べさせてもらっている感が強い。逆に言えば、兄弟子は付け人の全ての面倒を見ている感覚に陥るのも当然だ。

 貴ノ岩が貴大将を殴った理由は自分自身の忘れ物だ。いわば自分のポカを棚に上げて、付け人を殴った。意識の根底には「あれだけ世話をしてやっているのに…」という感情があるだろう。

 貴ノ岩は加害者の前は被害者だった。昨年の秋巡業中、元横綱日馬富士から鳥取市内のカラオケルームで暴行を受けた。責任を取って日馬富士は引退し、事件の後遺症ともいえる一連の騒動で元貴乃花親方は退職、部屋も消滅した。殴られた痛みや暴力事件の怖さを誰よりも知っているはずなのに、それでも殴った。根底にあるのは付け人との主従関係。もっと言えばお金の面倒を見てやっているのだからパシリをするのは当然…という意識だろう。

 力士の給与が月給制になったのは昭和32(1957)年の5月。もう61年も前の話だ。幕下以下に給与を支払わない制度は「強い者だけがのし上がる」テコの原理にはなったかもしれない。しかし、当時より格段にコンプライアンスが厳しくなった今の世の中ではどうだろう。幕下以下にもある程度の財力を与えないと、関取衆から「小間使い」の意識は払拭できないのではないか。(特別記者 植村徹也)

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