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【夕焼けエッセー】しあわせの階段

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 駅前の、果物屋さんの定休日は水曜日のはずだ。なのに金曜日にシャッターが下りていて、近付いてみると、閉店の旨を記した貼り紙があり、心がしょんぼりしてしまった。

 朝採り苺が、とびきりおいしかった。時々奮発して桃苺も買った。りんごジャムを作るとき、今では珍しくなった紅玉りんごも、この店で見つけた。冬、嘉七(かしち)みかんが並ぶのが待ち遠しかった。店の脇にある階段を上ると、果実の香りが立ち上って来た。

 ある秋の日、いつものようにその階段を上ろうとすると、風向きのせいなのか、いつもより強く果物の香りがしてきた。それは、桃と葡萄(ぶどう)とりんごの香りが混じった、えも言えぬ甘酸っぱい香りで、階段の踊り場まで上っていた私は、しばしその香りを楽しみ、また階段を下りては、上る、をくり返し、しあわせ感に浸ったことがある。以来、この果物の香りのする階段を私は、「しあわせの階段」と呼ぶようになった。

 今、シャッターの下りた店の脇の階段を、ゆっくりゆっくり上ってみる。果実の香りが追いかけて来るような気がして。

 松尾とも子(61) 堺市南区

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