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【夕焼けエッセー】亡き夫と再びの立山へ

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 今、私は33年ぶりに立山の室堂(むろどう)を訪れている。昭和60年9月1日、家族も友人もいない夫と2人だけの結婚式を挙げたホテルはあの日と同じように静かに温かな顔で迎えてくれた。

 一昨年3月、元気になったらもう一度あのホテルに行こうねと約束していたのに、夫は私を残して逝ってしまった。もう二度と会えないのだと思うと寂しくて、何をする気にもなれず、一日がとても長く感じられ鬱的にもなった。今年、三回忌を終え少しずつ元気を取り戻した私は、夫の写真を持って結婚式を挙げた立山のあのホテルに行こうと心に決めた。

 他県に住む娘に話すと一緒に行くと言ってくれた。そしてあの時と同じ、日本海側からアルペンルートで室堂のホテルに一泊、翌日黒部ダム経由で信濃大町へ降りるコースの旅に出た。

 33年という長い年月がたっているのに、自然は同じ息遣いをしていた。ホテル周辺は霧で覆われ視界が悪い時もあったが、一瞬霧が晴れると懐かしい風景が目の前に。あの日私がフィルムを入れ忘れ、空のカメラで撮った写真は1枚も残っていないが今も心の中にはしっかりと残っている。

 病弱で結婚を諦めていた私が夫と巡り合い平凡だけど幸せな日々を過ごすことができた。私の夫への思いは年々強くなっている。またいつか一緒にこの思い出のホテルに泊まりに来たいねと夫の写真にこっそりと語りかけた。

 田中直子(67) 愛媛県伊予市

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