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【午後のつぶやき 大崎善生】史上最年少名人 谷川さん

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 そのころ奨励会員を数人連れて寿司屋へ行った(誰かのお別れ会)。飲んだり食べたりで盛り上がっていた。そのときガラっと玄関の扉が開き、長身の谷川名人が記者に連れられ颯爽と入ってきた。次の瞬間、驚いた。あんなに騒いでいた奨励会員たちがみな押し黙り、直立不動で立ち上がったのだ。全員、何も言わずに頭を下げる。その前を静かに谷川さんは通り過ぎ、階段を上がっていった。

 まだ新米の編集者だった私は、これこそが将棋界の根底に流れるものなのかと身を固くした。誰にも流れる名人への敬意。谷川さんより年上の退会者も立ち上がり頭を下げている。そんな奨励会員たちの姿がまぶしく見えて仕方なかった。

 谷川さんの長年の看板となった“光速流”を名づけたのは自分なのだが、あの頃から30年後くらいに雑誌の企画で対談したとき、このネーミングのせいで7、8勝は損をしたと聞いた。必死(どう逃げてもいずれ詰む状態)をかければ勝つ局面で、看板を大事にした谷川さんは必ず難解な即詰めに挑む。その結果、取りこぼしてしまったというのだ。しかしこの看板のせいで「詰みもない局面で、蛇ににらまれた蛙のように投了してもらったことも何回かあります」。で、大笑いとなった。(作家)

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