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【夕焼けエッセー】同人雑誌の思い出

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 私は最近、私たちが62年前に発刊した同人雑誌を再読しています。表題は「いんてる」といいます。大事に紙袋に入れて収納していたのを取り出したら、紙がぼろぼろになりかけていて、慎重にページをめくらなければ分解してしまいそうです。

 私は現在89歳です。同人雑誌を作ったときは、まだ28歳でした。その頃はS新聞社の印刷局大組課という部署に勤めていました。同じ職場の同僚たちで、文学好きの連中が集まって作りました。なんとか原稿を集めて、35ページほどのものを印刷所に出しました。

 初版発行は昭和31年1月。やっと戦後が落ち着き出した頃で、紙は悪く、印刷もインクが薄い-そんな状態でした。でも皆若かった。文章を読み返すと、世相を慨嘆(がいたん)するもの、政治を憤慨してやまないもの-と若者の気概が充実しています。が、今読み返して気恥ずかしい思いもしています。ロマンスたっぷりの小説も掲載されています。

 買ってくださいと、社内で持って回りましたが、当時、週刊誌が40、50円。薄っぺらな70円の同人雑誌は4、5冊しか買ってもらえませんでした。手に取って激励してくださった方もいましたが、残念ながら6号で絶版となりました。その時の文友は皆、故人となりました。私が彼らに会う日もさして遠くはないと思いますが、会えば、あの頃よりはましな文学論を話せるのではないか、と思っています。

辻井和郎(90) 奈良県田原本町

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