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【夕焼けエッセー 8月月間賞選考経過】玉岡さん「災害通して思い共有」 眉村さん「8月ならではの作品」

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 「蝉の声」

 公園の近くを歩いていると、蝉が鳴いていた。今年になって初めて聞く蝉の声は、なんとなく初々(ういうい)しい。木陰を見つけ腰を下ろしてその声を聞いていると、遠い昔の頃を思い出した。

 昭和30年、田舎の中学校を卒業。男女27名、そのうち、男子3名が進学、地元に残るのはほんの数名。他は、学校と知人の紹介で都会へと就職した。農家の私は、家事を手伝うため家に残った。

 友と一緒に学び遊んだ暮らしから一変した田畑の仕事。一日を終え、夜空に輝く星を見ていると、自分ひとり取り残されたようでモヤモヤとした気持ちになる。その後、就職した友達から続々と手紙が届いた。その返事を書くのが楽しみのひとつになる。

 神戸に勤めたMちゃんが、お盆休みで帰郷。私の家に立ち寄ってくれた。真っ白なワンピースに白のサンダル姿は垢(あか)抜けて見えた。2人は手をとり合って喜んだ。

 彼女から小さな紙包みをもらった。みんな寝静まってから、その包みを開けてみる。白い木綿にレースが見える。広げると、細いヒモ…これってブラジャー!? 雑誌でみたが、手にするのは初めてだ。

 翌朝、両親は一足先に畑へ行った。私は、鏡台の前で初めてのブラジャーをぎこちない手つきで身につけた。うれしさと恥ずかしさで、ドキドキする。裏山で蝉たちの鳴き声がにぎやかだ。まるではやし立てるかのように。

 あれから63度目の夏。彼女は、昨年秋、介護施設に入所と知り胸が痛む。あなたとの思い出、伝えてほしいと、今日の蝉の声に託してみる。

後藤悦子(78) 大阪市天王寺区

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