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【夕焼けエッセー】駄菓子屋のおじちゃん

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 「駄菓子屋のおじちゃんね、病気で亡くなったんだって」。母の言葉に、私は「やっぱり」とつぶやいた。そしてさまざまなことを思った。

 おじちゃんの店から約1分の所に私が越してきたのは小学4年のときだった。当然、おこづかいを貰(もら)うと、おじちゃんの店へ行き、おじちゃんが感心するほど時間をかけて菓子を買った。おじちゃんはいつも店番をしながら、ぶ厚いメガネに大きなルーペで本を読んでいた。私が「松本清張って面白いね。」と言うと喜んで、たくさんの清張の本を貸してくれたり、「東山魁夷(かいい)の絵が好き。」と言うと魁夷の大きな画集を見せてくれたりした。

 おじちゃんは独り暮らしなので、ときどき私は買い物帰りに、ミカンを2つ3つ「あげる」と手渡すと、おじちゃんはうれしそうに「おう、ありがとう、ありがとう」と言ったものだ。

 私が京都の大学に進学が決まると、おじちゃんは喜んでくれた。もうその頃は専ら本の話で盛り上がる2人になっていた。梅田の大型書店でバッタリ出会ったこともある。リュックサック姿で、「京都行った帰りや」とおじちゃん。「私も、大学の帰りだよ。教授が本を出版してん」と言葉を交わした。

 もう歳だからと店を畳んだおじちゃんは、それでも近所に住み、よくスーパーのサービスデーでかち合った。それが最近、全く会わなくなっていたのだ。不吉な気がしていた。

 おじちゃんの店は更地になり、売土地の貼り紙がしてある。でも、思い出は消えない。

渡辺陽子(43) 兵庫県尼崎市

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