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【夕焼けエッセー】空に舞った千円札 

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 私はときどき、空き店舗の軒先を借りて、くだものの露店商をしている話し好きのおじさんから季節のくだものを買うのが好きだ。保存方法や、食べ頃の見きわめ方などいろいろと教えてくれるので、スーパーで買うときとちがった楽しさがある。

 ビュービューと風が吹くむし暑い日、私は桃の香にさそわれてその店に立ち寄った。すでに1名、若奥様風の人が、手に千円札を持って、おいしそうな桃を買おうとしていた。

 そのとき突然、強風が吹いてきて“アッ”と言う間にお札は、大空高く木の葉のように飛んでいってしまって、小さく小さくなった。その人は、あわてて一目散に追っかけ、さがしたが、「ビルの向こうに消えてしまった」と、がっかりした顔で帰ってきて、サイフからまた千円札を出して桃を買った。無念さがあたりを包み、そばにいた私も、どう声をかけたら良いのか困っていた。

 そのとき、店のおじさんは、桃のおまけを5個ぐらい用意して「これで少しでも気をとりなおして」と手わたした。彼女は小さくうなずいたので、そばにいた私もホッとした気持ちになった。

 「またこれに懲りずに買いに来てネ」。おじさんの声に見送られて彼女は帰っていった。

 あたりはとてもむし暑かったけど、私は、ここち良い風を感じながら自宅へとペダルをこいだ。

常門史子(74) 大阪府藤井寺市

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