PR

産経WEST 産経WEST

【夕焼けエッセー】拝啓 中隊長殿 

Messenger

 私が新入社員の頃は社内には第二次大戦の従軍経験者が大勢いた。

 陸軍航空隊パイロット、タイ鉄道連隊将校、シベリア抑留帰還兵、沖縄特攻駆逐艦乗組員などなど陸海軍交えさまざまである。

 新入社員で営業車を運転していると、突然、「おい。あそこに敵が隠れているぞ」と助手席からいきなり前方緑の小山を指差してくる。この声の主が、ラバウルで終戦を迎えた元陸軍大尉で親子ほど年の離れた私の教育係で、日頃から「生き残った者が頑張らんと死んだ者に対して申し訳ない」が口癖の人だった。

 いつも興味本位であれこれ戦争の話を聞く私に「初めて支那の最前線に出たときは敵弾が飛んでくるのが怖くて地面にへばりついたまま頭を上げられんかったよ。そのうち少しずつ馴(な)れてくるんだけど、南方で僕の指揮する中隊が敵の待ち伏せに遭ってね。砲弾の破片で負傷した部下がいて、傷は浅いぞと励まし一人残して最前線に移動したけど戻ってみると…」と、それからは声にならずいつも大粒の涙で泣かせてしまう。

 あれから四十数年も経(た)っているのに、自分の判断ミスで大切な部下を失った呵責(かしゃく)を引きずり敵襲のトラウマが消えなかった中隊長も、数年前に靖国の戦友のもとへ旅立った。

 「アメリカには負けたけど、僕は今でも腰に軍刀吊ってるから怖いぞ」と仕事で叱咤(しった)激励してくれた部下思いの先輩。社会人としての卒業が近づいた私は、8月15日が訪れると無性に会いたくなる。

井口寛司(60) 大阪府八尾市

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ