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【夕焼けエッセー】ピンクの電話

Messenger

 携帯にベル「もしもし」「あ、美代栄さんか。九十三歳の誕生日おめでとう。元気か」と彼から毎年誰よりも早く電話がかかってきます。

 そもそも彼との出会いは、大阪で生まれ、奈良の祖母の家から私と同じ小学校に通っていた同級生です。学芸会では、ヒーローとヒロインを演じ、友達から冷やかされていました。

 奈良盆地の真ん中の農村で六年間長閑(のどか)に育った彼は、元気に卒業し、中学校、大学は親許(おやもと)でと大阪へ帰りました。

 それから未曽有の戦争、終戦とゼロからの苦しい日本の再建に一心不乱に働きました。私は結婚後大阪市に住み、彼は奈良に住んでいると友達から聞いていました。長い年月音信不通でしたが昭和六十一年同窓会があり、卒業後初めての再会。彼は温厚な中年紳士になっていました。

 ある日、主人が奈良の得意先の会社で彼と会い、話すうちに、私の主人と私の同級生と分かりました。彼は一度私の家に訪れ、過ぎし年月の話に時を忘れて話し合い、年賀状の交換が始まりました。その後突然誕生日に電話があり「しっかり覚えていたよ」と。いつ覚えたのかしら?…私は十七年前主人を見送り娘と同居。彼も奥様を亡くされ娘さんの家に。昨年脳の手術をされ快癒。今年も忘れず電話を頂き安心しました。八十五年の糸が繋がっていました。

 ピンクの電話はあと幾年鳴るのでしょうか。

 私も受けることができるでしょうか。

 幼(おさな)より八十五年の 縁(えにし)の糸

 結ばれもせず ちぎれもせずに

竹本美代栄(93) 大阪府富田林市

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