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【石野伸子の読み直し浪花女】竹林の隠者・富士正晴(3)同人誌は「思想」 司馬遼太郎、寺内大吉、久坂葉子、山崎豊子…

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 戦前、杉浦正一郎という国文学者がおり、彼は同人雑誌に小説を書き大いに注目された。しかし一作きりであとは書かなかった。

 「小説家になるのがテレくさかったのかも知れない。この恥かしがりを見習う必要はない。けれどこの主体性といったものはすがすがしい」と書き、こう続ける。

 「寒山の詩にある。『此珠無価数』と。価のつかぬほど、永遠にめでたいものはないのかも知れぬ」

 世間に値踏みしてもらわなくても結構。信頼する同人の間で読んでもらうことこそ大切なのだ、と。

 あるいは、200号を超えた昭和42年に書かれた文章。昭和39年には戦後生まれの代表的同人誌「近代文学」が終刊していた。その「近代文学」がまだ元気だった時代、編集を手伝っていた中田耕治が富士に問いかけたことがあるという。「近代文学」と「VIKING」はどちらが後まで続くだろうか、と。即座に「VIKINGやね」と答えたら、中田は疑わしそうな微笑を浮かべものだが、富士はその理由を「VIKINGが近代文学より無思想で、ずぼらであるからだ」と心の中で唱える。

 「無思想で無任務であることは存命の方法として、私が大体は仕掛けたものである」

 ここには流行を追わず、中央に背を向ける確固たる信念がある。実際、茨木市の竹林にある自宅からほとんど出ることのない暮らしぶりだった。

 しかし、「竹林の隠者」がただの唯我独尊では、俊英が途切れず富士のまわりに集まることはなかっただろう。

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