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【瀬戸内家族】伝承の味 滲み出る海山のコクと深み 写真家・小池英文

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【瀬戸内家族】
伝承の味 滲み出る海山のコクと深み 写真家・小池英文

故郷に伝わる「しばずし」作り 故郷に伝わる「しばずし」作り

 因島(広島県)に「しばずし」という郷土料理がある。ただ最近は作れる人が少なくなり、島内でも貴重な食べ物になっているという。

 先日亡くなった妻の祖母は、その「しばずし」作りの名人だった。本来は秋祭りのごちそうとして作られるものだが、彼女は人が集まる正月に向けてそれを仕込むことが多かった。

 作り方は多少手間がかかる。まず、小鯛を三枚におろして塩漬けにしておく。続いて自生したタデの実を畑から採ってくる。それにナスやタコを加えれば準備は完了だ。炊き上がったご飯に米麹とタデ粉を混ぜ合わせ、桶にそれを薄く敷き詰め、上から醤油やミリンをふりかける。

 その上に小鯛とナスとタコを数枚並べ、さらにご飯を重ねて敷き詰め、同様の作業を何回か繰り返してから桶蓋を閉める。あとは重石を載せて半月ほど寝かせれば瀬戸内では珍しい発酵ずしの完成だ。

 味は甘酸っぱくコクがあり、落ち着いた深みを感じさせる。今どきのご当地グルメとは一線を画す、まさに伝承の味といっていいだろう。

 残念ながら祖母が作った「しばずし」を口にすることはもうできないけれど、この先もぜひ受け継がれていって欲しい逸品だ。

 こいけ・ひでふみ 写真家。東京生まれ。米国の高校卒業後、インドや瀬戸内などの作品を発表。今年1月、写真集「瀬戸内家族」(冬青社)を出版。ウエブサイトはhttp://www.koike.asia/

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