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【夕焼けエッセー】されど、携帯

Messenger

 まるでか弱い小動物のように、長年愛用していた携帯電話が寿命を迎えてしまった。世の中は右も左もスマホに浸っている時代に逆らうわけではないが、手のひらに馴染(なじ)んだガラケーの感触で10年。覚悟はしていたが、充電が途切れ、接触障害が起こり、待ち受け画面に緞帳(どんちょう)が下りるようになった。

 SDカードを臓器移植のようにパソコンに入れるか、思い出深い悲喜こもごものメールを写しとるか…。ショップの店員は「仕方ないですね」と笑顔でクールに言うだけ。時代というより自分の年齢が過去の一ページに執着しているのを実感する。その為に、もう少し記録に要す時間を残して、と充電を重ねる。ピッピッと小さい青い電気が、まるで終末の心拍波長ように、灯(とも)っては消え、消えては灯る。こんな小さな不安定な機器に自分は何を依存していたのか。明日プリントアウトしよう。しかしそれさえも、人生の残り少ない時間とともに、いずれ全て消え去るというのに。

 車窓の景色をぼんやり見る通勤風景もなくなり、同じ角度で首を曲げ、取り憑(つ)かれたスマホ信者にならぬよう何時まで抵抗できるか自信がない。最新武器を装備し、超越した美形のスマホに言ってみる。“ボスは私だから”と。その行為そのものが、もう振り回されている、と苦笑しながら。新しい目薬のパッケージを開けながら。

川元美代子(69)堺市西区

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