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【夕焼けエッセー】一粒の米

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 「ごちそうさん」とつぶやいてお茶碗の中を舐(な)め回すように見る。一粒でも残っていたらつまみ上げて食べる。これが私の自慢の食べ方だ。一粒も残さず食べるのは、米作りの名人とは言えないが玄人(くろうと)と言える主人への感謝の気持ちの表れだ。

 今年もそろそろ米作りの準備が始まった。早朝半病人のような私を置いて主人は床を出る。朝食を後回しにして田を鋤(す)きに出て行く。朝食後も又出て行く。もみ播(ま)きの作業となっても、もみの水しぼり、機械の調整等済ませ、やっともみ播きの流れ作業となる。次は、芽の出た苗を育苗器(いくびょうき)から出し軽トラックに積んで、やや離れたビニールハウスまで運び、並べる。この苗を田に植えるまで、立派に成長させる為毎日時間を決め給水する。又、その日の気候に気を配り、ハウスのビニールの上げ下げ、扉の開閉等に気の休まるときが無い。田植えが始まるまで気が抜けない。又、次年度の為にも、家にいるときも、机に向かい、農事、農機具、農事ごよみ等事細かに記し残している。

 田植えの前でもこれだけの仕事をこなす主人に私は畏敬の念を抱くようになった。これまでの私は、米作は主人の生まれついての当然の仕事だと無関心に過ごして来た。3年前、私は大病を患い、3カ月入院。そんな私を毎日見舞ってくれた、米作一筋の主人が精込めて育ててくれたお米は一粒も残せない、という思いが湧く。

松原美知子(79) 三重県伊賀市

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