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【西論】認知症事故リスク 救済制度創設、国は重い腰上げよ

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【西論】
認知症事故リスク 救済制度創設、国は重い腰上げよ

スターバックスの店舗内で行われている認知症カフェ「Dカフェ」=東京都町田市(スターバックス提供) スターバックスの店舗内で行われている認知症カフェ「Dカフェ」=東京都町田市(スターバックス提供)

 認知症の高齢者らが起こした事故の被害賠償をめぐり、全国で初めて公費から給付金を出す救済制度を盛り込んだ神戸市の条例が3月に成立した。10年以内に全国の高齢者の5人に1人が認知症になるとの推計もある中、神戸市が全国に先駆けて公的な救済制度を構築した意義は大きい。とはいえ、大半の自治体には同様の制度がなく、国も「公的な制度導入は困難」と慎重な姿勢を崩さない。

 誰もが認知症の当事者になりうる時代になった今、国、そして日本全体がこの問題を放置してはならない。

 ◆家族が問われる賠償責任

 認知症高齢者らによる被害賠償の是非がクローズアップされたのは、愛知県大府(おおぶ)市で平成19(2007)年、認知症の男性=当時(91)=が電車にはねられて死亡した事故がきっかけだった。

 JR東海は家族に振り替え輸送費など約720万円の損害賠償を求めて提訴し、1、2審は家族の賠償責任を認めた。しかし、最高裁は28年3月に「日常的な関わりの程度から責任を負う場合がある」との初判断を示しつつ、このケースについては妻が要介護認定を受けていたことなどを考慮し、家族に監督責任はなかったと結論づけ、JR東海の逆転敗訴が確定した。

 最高裁判決は介護側のリスクを低下させる一方、「準監督義務者」として家族が賠償責任を負う可能性について言及しており、認知症患者が起こした事故の賠償責任を、家族が問われるリスクが現実化した。今後も賠償を求められるようなケースが全国で相次ぐことを想定する必要がある。

 厚生労働省によると、全国の認知症高齢者は27年時点で約520万人に上り、37年には約730万人に増える見込みになっている。医療の進歩によって長寿社会を実現しながら、認知症の治療法が確立されていない現状では、認知症患者が増加するのは必然だ。

 事故の懸念も増加する。実際、警察庁のまとめでは、運転免許更新時などに認知機能検査を受けた高齢ドライバーのうち385人が、昨年1年間に交通死亡事故を起こした。家族が認知症患者になる可能性を含め、国民一人一人にとってJR東海のような事故は決して「対岸の火事」ではない。

 ◆泣き寝入り防げ

 「認知症の人を抱える家族にとって被害賠償は大きな負担。社会全体で支える公的な仕組みが必要だ」

 神戸市の久元喜造市長は平成28(2016)年9月、記者会見で救済制度の意義をこう語った。市長の方針を受け、市は昨年5月に専門医や大学教授らでつくる有識者会議を発足させ、条例成立まで議論を重ねた。新たな制度は、加害者か被害者のいずれかが神戸市民で、認知症患者が事故で第三者を負傷させた場合などを想定。給付金は自賠責保険(最大3千万円)などを参考に算出し、年約3億円を公費から充当する方針だ。

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