PR

産経WEST 産経WEST

【夕焼けエッセー】穏やかな6時間半

Messenger

 今日は夫のデイサービスの日である。

 送迎車を見送り、家に戻ると肩から荷を下ろしたように、すうっと体が軽くなった。

 ああ、これからの6時間半…。

 早速、掃除機を出して家中の掃除に取りかかった。窓から差し込む春の日差しがうれしい。

 すっきりと片付いた部屋。食卓でお茶とお菓子をいただき、大満足だ。ゆったりとひとりだけの静かな時間に、遠い昔のことを思い出した。

 混雑した都会の道路。夫が運転する助手席で、「うちの家はどっちの方角?」。夫は左手で「あっちの方や」と即答したころもあった。

 ところが、いまでは200メートルほど離れると、自宅に戻れない。足腰は丈夫。食欲もある健康体。

 どこがどうなっているんだろう。夫の横顔を見て疑う日々。

 認知症は病気なんだと分かっていながらも、毎日のことに感情を抑えられず、怖い顔で語尾を強くすることもある。

 こうして静かに時を過ごしていると、わびる気持ちがつのり、反省している私。

 「もしもし、今、ご自宅の方へ向かっています」と、職員の方から電話が入るまでは2時間ほどある。

 それまではスーパーでゆっくりと買い物をして、夕食の準備をしよう。今日の6時間半。ゆったりとした気分になった。これで十分…。

後藤悦子(78) 大阪市天王寺区

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ