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【井上章一の大阪まみれ】

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 今東光(こんとうこう)は僧籍をもつ作家であった。一九五一年からは、八尾にある天台院の住職となっている。また、まわりで見聞きする河内の様子を、多くの小説にえがきだした。

 それらは同時代の読者におもしろがられ、話題をよんでいる。『河内ぞろ』や『河内風土記』は映画になり、シリーズ化もされた。河内の風俗をひろく世に知らしめた、その第一人者であったと言ってよい。

 今東光じしんは、自分がとりあげた河内の人びとを、こう書いている。「下劣で、ケチン坊で、助平で、短気で、卒直(そっちょく)で…それが河内者」だ、と。(『闘鶏』あとがき)

 しかし、これが歪(ゆが)みのない公平な河内像であったとは思えない。下劣で助平なところを誇張して、読み手をよろこばせた部分はあったろう。じっさい、地元の河内には、それらをめいわくがる人たちも、けっこういた。

 「あのかたは、おカネもうけのために、八尾をだいぶ悪く書かれた。あんまりええ人気やありませんな、八尾では…もっとほんとのことを書いてほしい、いわはる方ありますねえ」。鈴木二郎の『浪花巷談』(一九七三年)は、地元民のそんな声をひろっている。

 フランスの作家であるメリメに、『カルメン』(一八四五年)という作品がある。スペインに生きる野性的な女を、カルメンのことだが、えがいた小説である。こういう奔放な女を、文明化されたパリでは見かけない。だが、南国のスペインには、まだいるのだと、この作品はうったえかけていた。

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