産経WEST

【正木利和の審美眼を磨く】手強すぎる! 年の暮れ、鉄斎の龍の絵を読み解く話

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【正木利和の審美眼を磨く】
手強すぎる! 年の暮れ、鉄斎の龍の絵を読み解く話

富岡鉄斎「昇龍図」の箱書き 富岡鉄斎「昇龍図」の箱書き

 たとえば、箱の裏書きにも「龍集」「試筆」など、昨今使われなくなった言葉が現れているが、「龍集」の「龍」は「木星」のこと。「集」は星の宿り。木星は1年をかけて元の宿にもどることから「一年」を示し、年号のあとにしるされてきたものらしい。「試筆」はただの試し書きではなくて「書き初め」のこと。

 つまり、この龍は大正5(1916)年の書き初めとして描かれた絵であることがわかる。

 こうして読み解く楽しみもまた、鉄斎の絵の醍醐味(だいごみ)のひとつだ。

   □    □

 さて、問題は絵の横に添えられた文なのである。

 これがさっぱりわからない。最初の文字からして「?」なのである。

 この「のぎへん」のような文字は何か。

 さらに、次の「しんにょう」に「構」の「つくり」の文字は…。

 購入先の業者でさえ読み下せない文を、どうすればよいのだろう。

 そんな思案をしていると、うまいところに助け舟が。

 某美術館の学芸担当の女史で、某有名大学の大学院で学んでいて古代の書蹟を読みこなせる才女が、わが社に美術展のPRにやってきたのだった。

 彼女に鉄斎のこの絵の文を見せたところ、まんまと興味を示してくれたのである。

 「古代の研究をしているので、近代のものってあまりよくわからないのですが…」といいながら、解読してくれた内容は3案があったが、そのうち、最も近いのではないかと判断したものが以下である。

 我□新年登拝空看八十一鮮龍大正五年一月

 「しんにょう」に「構」の「つくり」は「あう」と読むそうであるから、「八十一歳、半寿の新年に、私はお参りするため山に登った。そこで手をかざしながら空をあおいだら、勢いよく空をゆく龍を見たよ」とでも訳せばよいのだろうか。

 龍は「雲龍」であるから「雲」。高齢でも富士山に登ったほど健脚の鉄斎先生だけに、新年のお参りに山にでも出かけたに違いない。そこで、めでたい龍の形をした雲を見たよ、ということを示したかったのではないか。

   □    □

 聞けば、女史はこの文を読むために多くの友人たちに見せて知恵を貸してもらったそうで、なんともありがたい話である。

 そんな風にしてわが家にやってきた龍は、リビングルームの壁に我が物顔で居座っている。

 ことしもあれこれいやなことはあったけど、この絵を手に入れることができたのだから、ま、いいや。

続きを読む

このニュースの写真

  • 手強すぎる! 年の暮れ、鉄斎の龍の絵を読み解く話

関連ニュース

「産経WEST」のランキング