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【午後のつぶやき 大崎善生】永世七冠はすごいことだけど…

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【午後のつぶやき 大崎善生】
永世七冠はすごいことだけど…

 私は機関誌「将棋世界」の編集長として、羽生さんの臨時増刊号を3冊も作ってきた。「竜王、羽生善治。」「名人、羽生善治。」「7冠王、羽生善治。」。羽生さんがデビューから7冠王に至るまで、もっとも近くで観てきたわけで、それは幸運なことだった。高校生だった羽生さんを企画を立てては全国に引っ張り回した。高校1年生の羽生青年に大阪でフグをごちそうし、この先どんなことがあっても最初にフグを一緒に食べたのは大崎さんですと植え付けた。羽生さんはレモンスカッシュを飲みながらフグ刺しをパクパク食べていた。

 いつも羽生さんを応援してきた私なのだが今度の永世七冠だけは正直いうと取ってもらいたくなかった。羽生さんの師匠は二上達也九段という名棋士で、将棋連盟の会長も長く務めた。棋聖を4期獲得、永世棋聖まであと1期と迫っていた。その二上さんが突然、引退を発表する。その記者会見で「あと一期で永世棋聖になれるのに、惜しくはないのか」と記者に質問され、柔和な顔でこう答えた。「私はこれから死ぬまで、その夢を見ることができます」。

 格好いいよなあ。だから羽生さんにもあと一つだけは残すという生き方もいいのではないかと思っていた。そのほうが夢がある。しかし取っちゃうんだよなあ。やっぱり強いから。    (作家)

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