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【夕焼けエッセー】しゃべるカラス

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【夕焼けエッセー】
しゃべるカラス

 そいつは春から秋にかけて、毎朝、同じ電柱のてっぺんに止まり、一時間ほどしゃべり続けた。

 ある朝、あまりうるさいので、外に出てにらみつけてやった。すると何を勘違いしたのか、一段と大きな声で

 「グルッグルッ、グビーグビー」と話しかけてきた。そこで応えてやった。

 「話し相手がほしいのか…」と。やつは返事をするかのように、「クアー、クアー」と体を上下に動かした。その日から、こいつの声が聞こえると、必ず外に出て、あいさつだけはしてやるようにした。

 夏が終わるころには、声も少しは澄んできて、長いフレーズをしゃべるようになり、羽の色もますます黒光りしてきたように感じた。

 そんなある日、いつものようにやつの声がしたので、外に出て電柱を見上げると、なんと連れがいる。子分か家族かわからないが、少し小さめではあったが、とにかく連れと一緒だった。やつは相変わらず「グビーグビー」と絶好調であったが、連れは無口でおとなしく臆病そうなやつであった。だまって電線に止まり、じっとしている。「もうさみしくないよね」と話しかけるとまた「クアー、クアー」と体を上下に動かした。

 翌日は、大型台風が来て、強い風が一日吹き荒れた。そしてその日から、やつは姿を見せなくなった。今はどこかの電柱で連れと一緒にしゃべっているのだろうか。多分、やつは私に連れを紹介できただけで、満足しているに違いない。

 早瀬知恵子(68)主婦 京都市左京区

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