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【関西の議論】白鷺城の空にタカが舞う、姫路の伝統再興へ動物園職員ら挑む

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【関西の議論】
白鷺城の空にタカが舞う、姫路の伝統再興へ動物園職員ら挑む

訓練されるタカ。12月には姫路市立動物園に引き渡される=兵庫県神河町 訓練されるタカ。12月には姫路市立動物園に引き渡される=兵庫県神河町

 白鷺(しらさぎ)城の別名で名高い世界文化遺産・姫路城。そのおひざ元の兵庫県姫路市で、サギならぬタカを使った観光振興の取り組みが進んでいる。歴代城主が鷹狩りを行ったとされる故事や、姫路城を舞台にした泉鏡花の戯曲「天守物語」に鷹匠(たかじょう)が登場することなどにちなみ、タカを訓練してイベントなどで活用することで新たな呼び物にしようという計画だ。姫路市立動物園の職員らが鷹狩りを行う際の技術「放鷹(ほうよう)術」の習得に励んでおり、3年後には城内三の丸広場での実演披露を見据える。近年は害鳥駆除の切り札としても各方面から脚光を浴びるタカ。姫路の空を華麗に舞い、街おこしにも一役買うことができるだろうか。(荒木利宏)

■大修理中の空を飛翔

 5年前の平成24年11月、姫路城を1羽のタカが舞った。当時修理中だった大天守を見学する施設「天空の白鷺」の8階部分から、直下の三の丸広場に向かってタカが急降下する実演が行われたのだ。修理のため城を訪れる観光客が減少する中、集客を図るために企画されたイベントだったが、反応は上々で、市はタカを使った観光振興策の検討を始めた。

 一方、このショーを見て別の視点から大きな刺激を受けた人がいた。城内にある姫路市立動物園の職員、河野光彦さん(51)だ。河野さんは30年近い飼育歴を持ち、動物園では主にゾウの飼育を担当してきたが、以前からタカの生態に関心を持っていた。

 翼に傷を負ったタカが動物園に持ち込まれた際には、野生に復帰させる方法を教わるために別の動物園の飼育員に会いに行ったこともあるという。「タカは自力で餌を取れないと野生では生き延びられない。タカの状態を見極め、野生復帰のタイミングを計ることの重要性を教わった」と振り返る。

 イベントを目の当たりにした河野さんは、若手職員に放鷹術を習得させることでタカの生態を理解し、タカをはじめとした鳥を野生に復帰させる際のノウハウを蓄積できないかと考えるようになったという。

■選抜職員で鷹匠育成

 市文化財課によると、鷹狩りは江戸時代には将軍家や大名家など限られた階層でのみ行われ、娯楽だけでなく、領内の視察や軍事演習などの側面も併せ持つ行事として重視された。

 姫路城の歴代城主では、姫路藩初代藩主で城の大改築をしたことで知られる池田輝政の時代に鷹匠を召し抱えていたとの記録が残っている。江戸幕府5代将軍・徳川綱吉の「生類憐れみの令」によって一度は衰えたが、8代将軍・徳川吉宗が鷹狩りを復活させた江戸時代中期以降は、酒井家が姫路城主だった時代に鷹狩りを行った記録が確認できるなど、城主たちに愛されたことがうかがえる。

 城の西には、鷹匠が住む地区だったことに由来する「鷹匠町」の地名が今も残る。また、大正時代に発表された泉鏡花の戯曲「天守物語」は、姫路城の主である美しい妖怪と、タカを追って城に迷い込んだ鷹匠との恋物語を描いている。

 これらのことから市は姫路城とタカとの関わりを新たな街の魅力として発信できると判断。姫路とタカとの関わりや「鷹匠文化」を発信するフォーラムを来年1月に開催することを決め、開催費や放鷹術の実演を想定したタカの購入費など計312万円を今年度当初予算に盛り込んだ。

 自前での鷹匠育成も打ち出し、河野さんにタカの訓練を依頼。希望を実現するチャンスととらえた河野さんは、動物園で20~30代の若手職員4人を選抜し、今年3月からタカの扱い方を習得するための取り組みを始めた。

■奥が深い「タカの道」

 日常業務の合間にタカについての知識を学んだ河野さんら職員5人は6月下旬、同県神河町の「神崎農村公園ヨーデルの森」で初めて実際の鳥を使った研修に臨んだ。

 ショー向け動物の育成などが専門の「アニマルエスコートサービス」(兵庫県福崎町)のトレーナーが指導を担当。職員らは最初に、専用のグローブを装着した左手にタカを止まらせる基本姿勢を長時間保つため、水を入れた紙コップを左手の拳の上に乗せ、こぼさずに立ち止まったり歩いたりする動作に挑んだ。

 「タカにとって左手は木の枝と同じ。グラグラするような不安定な状態では寄りついてくれなくなる」。トレーナーの内海秋穂さん(24)は基本姿勢習得の重要性をこう説明する。職員らはその後にタカと同じ猛禽類のダルマワシなどを使って手に止まらせる練習を行った。

 また、フライトショーをスムーズに行うために重要な、タカの体重と餌の摂取量の管理について学んだ。タカはグローブの上に乗れば餌がもらえると教え込まれるため、満腹の状態だとグローブの上に乗ってくれなくなるという。

 内海さんは「ショーでは餌を少なめに与え、あえて空腹の状態にするようにする。タカの体重を日々チェックして増減を把握し、餌の適正量を認識しておくことが大切だ」と語る。

 それまでタカを扱った経験のない職員にとっては新たに知ることばかりで戸惑うことも多かったが、参加した小川高志さん(39)は「研修で教わったことをしっかりと生かし、タカの扱い方をマスターしたい」と意欲を見せた。

 12月には市が購入を予定するタカを使っての研修が始まる。動物園では既存の獣舎を改装して「鷹部屋」を設置する作業も進んでいる。河野さんは「一朝一夕で放鷹術を習得することは難しいが、職員の能力底上げにつなげるためにもタカの扱い方をしっかりと身につけたい」と力を込める。

 ■タカが担う大きな期待

 一方で近年、タカに対する社会の関心が増している。

 都市部ではハトやムクドリなどのふんや鳴き声に悩まされる事例が相次ぎ、その「特効薬」として天敵のタカを活用した駆除作戦が全国各地で行われ、一定の効果をあげているのだ。

 住宅街やマンションなどでタカを利用する例が増えているほか、神戸製鋼所の加古川製鉄所(同県加古川市)では、ふんによる鉄鋼製品の腐食被害を防ぐため、タカを工場内に放ってハトやカラスを追い出す作戦に乗り出している。

 また、NPO法人日本放鷹協会によると、成田空港や関西国際空港では、飛行機のエンジンに鳥が衝突する「バードストライク」の防止策として、タカに空港周辺を巡回させ、鳥たちに恐怖心を与えることで飛来数を減らす試みが本格化している。

 同協会の神内光示副理事長(51)は「姫路での試みは、タカや鷹匠に対する関心を育てるいいきっかけになる。一過性のイベントで終わらせず、長期的なプロジェクトに育ってほしい」と期待を込めている。

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