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【夕焼けエッセー】日曜日の郵便局

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【夕焼けエッセー】
日曜日の郵便局

 仕事柄どうしても日曜日の午後ぐらいしか郵便局に行くことができない。7月最初の日曜日、隣町の集配局で用を済ませて帰るところだった。

 息を切らしながら1人の女性が駆け込んできた。左腕に黒のバッグ。右手には財布と定形外サイズの封筒。白いブラウスに、黒のスカート。夏の暑さで溶け落ちてしまいそうなメイク。ひと目で分かる。就活生だ。

 ふと腕時計を見た。18時32分。

 「よかったな、まだ間に合うぞ」。心の中でつぶやく自分がいた。19時までに集配局に速達で申し込めば、翌朝一番には先方へ届く。

 「なんでまだ覚えているんだろう」。われながら苦笑いする。

 僕は就職活動に失敗した。解禁日、真夏の新橋を全身黒のスーツで駆け回った。10月1日の夕方も同じスーツで一人、新橋を歩いていた。内定仲間と新橋を闊(かっ)歩(ぽ)する、名も知らぬ同期たちが羨(うらや)ましくて、ひとり泣いた。

 数えてみれば109社に落ちていた。「煩悩の数より多いな」、年越しそばをすすりながらぼやいた。それでも、ふとしたきっかけで今の職に就くことになった。

 そんな感慨にふけっていると、無事に発送を終えた彼女から、心なしか安堵(あんど)の表情がこぼれていた。駅へ向かう足取りは、ここに来たときより幾分か軽そうだった。

 「負けるなよ。100社落ちても、1回勝てば“勝者”になれるよ」

 かすかな夏の日差しと、彼女の背中に敗者なりの精いっぱいのエールを送った。

力丸 将之(24) 教員 埼玉県深谷市

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