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【福嶋敏雄の…そして、京都】(68)水上勉 名文学を生んだ遊郭あそび、千本中立売で安酒、禅寺で兄弟子のイジメ…

 千本通りと中立売通りの交差点の周辺は、京都の人には「センナカ」と呼ばれている。西に向かって下町風の商店街がたちならび、西北、西、西北とギザギザに折れていくと今出川通りに出て、正面に北野天満宮の大きな社殿に行きあたる。碁盤目状の区画が多い京都でも、珍しい一帯である。

 「センナカ」の手前の道を南に折れた。幅5~6メートルほどの細い道で、お寺やアパート、古い民家などが並んでいる。突然、といった感じで、映画館に行きあたった。「千本日活」である。

 入り口がひろく、昭和30年代のころのような風情のある映画館である。「新妻がどうされたこうされた」「何度もああしてこうして」といった内容のポスターが貼られている。いまでは大阪の下町でも、あまり見かけないピング映画専門の上映館である。

 ちかくには遊郭の五番町があったように、京都でも有数な歓楽街であった。デラックス東寺、伏見ミュージックとならび、京の3大ストリップ劇場と呼ばれた千中ミュージックもあった。あたりには学生下宿も多く、学生たちに人気の劇場であった。

 水上勉の代表作『五番町夕霧楼』は、昭和10年代のはじめの頃の界隈(かいわい)が舞台だ。あたりの風景を、こう描いている。

 「この通りは丸太町まで千本と並行してのびているが、南北に通じるこの通りを中心にして、東西に入りこむ通りを含めて、凡(およ)そ二百軒からなる家々は軒なみ妓楼(ぎろう)だった

 ぶらぶら歩いていくと、ときたま軒の下を暗く沈ませた、いかにも風情のある格子造りの建物もあったが、往時をしのばせるものはなにもない。道のわきに、顔を白く塗ったお地蔵さんをまつる祠(ほこら)があった。かつて娼妓たちがお参りしたのであろう。

 『五番町夕霧楼』は映画化もされ、清純派女優の佐久間良子が娼妓役を演じて評判となった。水上の体験にもとづいた創作で、遊郭「夕霧楼」にやってきた夕子という娼妓と、金閣寺をモデルにした「鳳閣寺」の徒弟とのモノ哀しい愛の物語である。夕子が故郷の与謝で服毒自殺する最終章は、水上文学のなかでも、とりわけ哀切である。こう書かれている。

 「(ひぐらし)が鳴いていた。父娘(おやこ)が墓地を下り切ると、夕子の背中へいつまでも花が散った

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