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【理研が語る】化学者の誇りと喜び 生命科学に挑戦

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【理研が語る】
化学者の誇りと喜び 生命科学に挑戦

近年開発したPET分子プローブの1つ「C‐11-標識ビタミンB1の構造式」。ビタミンB1に放射性炭素C‐11で目印をつけ、ここから放出される放射線を計測することで、ビタミンB1が体内のどこで働いているのかを観察することができる 近年開発したPET分子プローブの1つ「C‐11-標識ビタミンB1の構造式」。ビタミンB1に放射性炭素C‐11で目印をつけ、ここから放出される放射線を計測することで、ビタミンB1が体内のどこで働いているのかを観察することができる

 「自らが合成した化合物を直ちにヒトに投与する」。究極の緊張感。化学合成は間違っていないだろうか。不純物は混ざっていないだろうか。しかし、ここには、もの作りの化学者にしか味わえない誇りと喜びがある。

 陽電子放射断層画像撮影法、略してPET(ペット)と呼ばれる核医学の診断法がある。生命や病気にかかわる分子が、体内のどこにどれだけあるかを画像化する技術だ。例えば、観察したい分子に放射性同位体で目印を付け、そこから放出される放射線を体外から計測し、コンピューター処理を行う。すると体内を輪切り状態に映し出した断層画像にできる。

 PETにおける私たち化学者の役割は、PETでの診断に欠かせない、放射性の目印を付けた分子(PET分子プローブ)を開発することである。この開発には、寿命が短い炭素の放射性同位体(C‐11:半減期は約20分)がしばしば用いられる。

 もともと、私は化学を志すつもりはなかった。むしろ、生命が織り成す生体内の機能(光合成やタンパク質の働き)に、人智を超えたたえなる営みと深遠な宇宙的壮大さを感じていた。そのような中、化学を講義中の先生の一言が心に響いた。

 「酵素反応に勝ちたい」

 眠かったが、目が覚めた。先生の言葉の中に、人間の無限の可能性にかける化学者の魂を見た。また、その言葉の背後には、自然と生命に対する敬意を感じた。20代の前半、当時の若き心はすっかり化学に魅了された。

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