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【夕焼けエッセー】森田公一さん

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【夕焼けエッセー】
森田公一さん

 先日、BS放送で昭和51年の流行歌の特集番組を懐かしく見ていた。森田公一とトップギャランの「青春時代」が流れていると、20代のできごとが鮮明に浮かんできた。

 松江市内で所用をすませ、ウナギやシジミなど宍道湖特産の料理が人気の居酒屋に入った。7、8人が座れるだけの狭い店内で飲んでいると、私をじろじろと見つめる男性が気になった。しばらくすると、その人が近付いて「あの、サインしてもらえませんか。『青春時代』を歌った森田さんでしょう」。

 一瞬面食らった。酒に酔った冗談かな、とも思ったが、どうやら本気のようだ。

 「違いますよ。それほど、森田さんに似ていますか」。「てっきり、森田さんだと思いましたよ。目のあたりが」。残念そうに、彼は席に戻っていった。

 森田さんはお世辞にも美男子とは言い難いが、ヒット作を出した有名人だ。芸能人に間違われ、気分は悪くない。その後の酒がすすんだのは言うまでもない。初めての体験で、ちょっぴり森田さんが気になった。

 数年後、高知市内の繁盛している居酒屋で、目の前に座った男性から「森田公一さんですね。お忍びですか」。二度のハプニングで、私は森田さんを強く意識するようになった。

 あれから40年。もはや、髪の毛が少なくなった、ただのおっさんに声をかける人は誰もいない。青春時代は後からほのぼの思うものだろうか。

早川邦夫 62 広島県福山市

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