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【正木利和の審美眼を磨く】比沖で撃沈、広島で被曝…東山魁夷も黙る、死線を超えた「風景との対話」 日本画家・堂本元次

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【正木利和の審美眼を磨く】
比沖で撃沈、広島で被曝…東山魁夷も黙る、死線を超えた「風景との対話」 日本画家・堂本元次

「美しく映ゆ劉家峡」(1989年) 「美しく映ゆ劉家峡」(1989年)

 静かに澄み渡った絵である。ひとつには絵の具が画面にきわめて薄く置かれているせいに違いない。この画家の薄塗りの技量は、巨匠、東山魁夷(かいい)も舌を巻いたといわれるほど。だから、まず画家の腕の冴(さ)えに、目を見張らされるであろう。

 その絵、「美しく映ゆ劉家峡」は、京都市北区の京都府立堂本印象美術館で開催中の「堂本元次展」(6月12日まで)で見ることができる。

 抜けるような青空の下、たゆとう大河。画面の半分を大胆に使い、画家は穏やかな黄河の水面に対岸の景色を浮かべた。さらに空の青さを画面下部の水面に落とし、青い帯で風景をはさみこむしゃれた構図を作り出す。少し離れて見ると、今度は写真と見まがうほど丹念に描かれていることがわかる。ただ薄塗りの技術だけではない。優れた描写力に支えられた豊かな画面構成力が、この絵の中に切り取った風景を鮮やかによみがえらせている。

 描いたのは、日本画家、堂本元次(1923~2010年)。今回の展示は、この「美しく映ゆ劉家峡」を含む本画約50点とスケッチなどで振り返る、彼の初めての回顧展である。

 元次は戦争で九死に一生を得ている。京都市立美術工芸学校で図案、京都市立絵画専門学校で日本画を学び、卒業後入隊すると、1944年7月には乗船した船が魚雷を受け、フィリピン沖で撃沈されたのである。このとき、13時間も海に漂い救助されたものの、片耳の聴力を失った。

 翌年8月、今度は広島で被爆。被災者の救助活動のさなかに黒い雨を浴びたせいで、復員後もその後遺症に苦しむことになる。

 友や知人を戦争で失って抱いた「死に損なった」という思い。それをぬぐうことができたのは、戦地でも「みんながたばこを一服する合間に、背嚢(はいのう)から鉛筆を出して、ヤシの木や民家を描いた」というほど好きな「絵」のおかげだった。

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