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【正木利和のスポカル】
カッコよさとは何だ アイビーのご意見番たちに学ぶ、こだわる心
近ごろめっきり使うことがなくなった言葉のひとつに「一張羅」がある。
小学館の大辞泉で「いっちょうら」をひくと「その人が持っている衣服のなかで、最もよいもの」とある。
ユニクロを代表にカジュアルな衣類が安価に手に入るようになった。クールビズだとかなんだとかで、職場でもネクタイなしだってオーケー。
いわゆる、会社・組織での慣例としてのドレスコードも、こんな風にゆるゆるになってしまった現代という時代に、「一張羅」が死語になるのも、それはそれでいたしかたのない話なのかもしれない。
かつて、服装は社会的な地位や階層を象徴するものだった。それが、いまや服装だけで人の社会的な地位は見抜けないほど「公平な社会」がやってきた。
もちろん「公平」とか「平等」な社会が悪かろうはずはない。ただ、味気ない感じがするのである。
だから、たとえカジュアルであっても、量販店で買ったものをちょちょちょいっと着る人とは違う、こだわった装いというものをする人を目にすると、カッコいいなあ、と思うのである。
近ごろめっきり少なくなった、そうした男たちを、先日まとめて見かける機会があった。
神戸ファッション美術館で行われた服飾評論家のくろすとしゆきさん(81)のトークイベントと交流会である。
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ちょうど、その日、他の美術館での取材が終わったあとでのぞくことにしたら、ファッション担当の同僚女性記者がしめしめといった表情で「じゃあ、手伝ってください」。聞けば、本紙夕刊に掲載するストリートスナップ「おシャレさん発見」を、この会場でやってしまおうという魂胆だった。
ストスナは結構、手間のかかる取材のようである。通常、テーマにあったファッショナブルな人を見つけるところから始まるのだが、そう簡単におしゃれな人はいないものらしい。カメラマンと一緒にジッと待ち、メガネにかなった人がいたら許可を得て撮影したうえで話を聞く。これを街角でするのだから厳しい。