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【夕焼けエッセー】自動車学校

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【夕焼けエッセー】
自動車学校

 講習が始まる30分も前に着いた。2階のロビーは、職員の方以外に私一人。長いすに腰掛け、冬の寒々とした運転練習場を見ていると、20歳のころ、夏休みに自動車学校へ通ったことが懐かしく思い出された。

 ぽつぽつと高齢の男性が集まり始めた。時間になり教室に入ると、「寒いでんなぁ」。お決まりの挨拶に気持ちが和み、6人の少人数で講習が始まった。動体視力や運転機能の検査は、ボタンやハンドルで素早く正確に反応しなければならない。テレビゲーム感覚のこの手の機械は苦手で、案の定、ビリで席を立った。

 練習場に下りて、最初の運転者に指名された。ベテランの教官が「シートベルトを締めたら発進」。思わずハンドルを握る手に力が入る。「次の信号を右折しよう」。「はい」。普段は頑固な私。素直な態度が自分でもおかしい。

 「あの縁石に乗り上げ、ポールの手前で車を停止!」。「はい」。アクセルを踏み、ポールの寸前でブレーキを踏む。なんとかクリア。高齢ドライバーが、ペダルを踏み違えないための学習らしい。

 教室へ戻り、6人全員に「高齢者講習終了証明書」が手渡されると、ほっとした空気に包まれる。自転車で帰る人、駅へ急ぐ人。年輪をしっかり顔に刻んだ男達が、早々と日常の生活に戻っていく。

 歩いての帰り道、小さな踏切で立ち止まる。免許証はゴールドだが油断大敵。首を伸ばして、右よし、左よーし!

竹田健次 71 建築業 大阪市中央区

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