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【夕焼けエッセー】本屋さんよ永遠なれ

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【夕焼けエッセー】
本屋さんよ永遠なれ

 幼い頃から本に親しんできた。「幼稚園」「小学1年生」などの雑誌が家へ配達されてきたし、父とミナミへ出かけると「講談社の絵本」を買ってもらえた。終戦の翌年、中学生になると1人で本屋に入り、好きなものを選んで買う楽しみを覚えた。

 ある日、隣町のちょっと大きい本屋に入りあれこれページをめくっていると、店の主人がとんで来て、私が家から持って来て脇に挟んでいた雑誌をひったくった。怖い目でその本と私をにらみ据えてから「ヨシ」と言って本を突き返した。

 とても驚いたが「李下(りか)の冠(かんむり)、瓜田(かでん)の履(くつ)」ということわざなど知っているはずがない。でもこのことで本屋との付き合い方を知ることになった。

 あれから70年、数え切れないほどの本屋と付き合ってきた。振り返ると相性というものがある気がする。大きな店で見つからなかった本が、こぢんまりとした店で私を待っていたかのように棚から顔を出している。そんなことがたびたびあってひいきの店になる。

 ところが最近、ひいきの本屋がある日忽然(こつぜん)と姿を消してしまうことが、ときどき起こりだした。インターネット書店の出現に押されてのことらしい。

 先日、デパートの書籍売り場でマットに座り込んで本を読んでいる女の子を見た。幼稚園児くらいで大きな声を出して読んでいる。

 この子がいずれネット読書をする日がきても、幼い日、紙の本を手に取って読んだことを思い出してくれたらうれしいなと思った。

望月隆昭 82 医師 大阪府八尾市

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