産経WEST

【夕焼けエッセー】歌と語りのコンサート「煙が目にしみる」 東京と大阪で公演 感動を伝えたい

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【夕焼けエッセー】
歌と語りのコンサート「煙が目にしみる」 東京と大阪で公演 感動を伝えたい

歌と語りのイベント「煙が目にしみる」を開く朗読の佐藤啓子さん(右)とジャズ歌手のみうらまちこさん

 公演では「煙が-」ほかもう1作品と自作の物語「妓王」の一節を朗読。東京公演は18日に国立市の喫茶店「白十字」で。大阪公演は12月13日、大阪市北区のライブハウス「Mister Kelly’s」。いずれも問い合わせと申し込みは佐藤さん(090・6502・7782)か、みうらさん(080・5248・4003)まで。

                ◇

「煙が目にしみる」 久保田照子

 私が初めて外国の音楽を身近に聴いたのは60年前の終戦の年である。商人の街・大阪人はあちこちで早くも闇市で物を売り始めた。

 住吉神社の境内にも、お金さえあれば欲しいものが買える商品が地面に並べて売られていた。私がいつも足を止めて、じっと見ている商品は手巻きの古い蓄音機だった。

 品のよいおじいさんが客の来るのを待っている。まさか私のような小娘を、客とは思わなかったのか無視されていた。思い切っておじいさんに声をかけた。「その蓄音機なんぼするの」「なんやこれ欲しいんか。そやな、娘さんいくらやったら買えるんや」

 私は黙って布で作った巾着(きんちゃく)から、あるだけのお金を出して見せた。少し困った顔をしたが「よっしゃ、持っていき。レコードはあるんか」「空襲で焼けて何もない」

 おじいさんは笑いながら一枚のレコードをくれた。ザ・プラターズの『スモーク・ゲッツ・イン・ユア・アイズ』だった。

 家具も何もないガランとした部屋で、初めて聴いたのがこの曲である。歌の意味など何もわからないが、四畳半の壁にもたれて、繰り返し聴いているとなぜか切なく泪(なみだ)があふれた。

 数年後この曲の詞を知った。「なぜあなたは泪ぐむ。そのわけは私には分からない。人は言うわ。恋をする人は皆いつだって寂しいと」

 今年、60年目の夏がくる。(再掲)

「産経WEST」のランキング