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【渡部裕明の奇人礼讃】小野篁(下)閻魔大王の横で…「冥界の裁判官」伝承を生んだ平安文人

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【渡部裕明の奇人礼讃】
小野篁(下)閻魔大王の横で…「冥界の裁判官」伝承を生んだ平安文人

小野篁神社=大津市

 ●「冥官伝説」が生まれたわけ

 12世紀に成立したとされる説話集「今昔物語集」には、篁に関する不思議な逸話が収録されている。大臣・藤原良相(よしみ、813~867年)が重病に陥り、亡くなってしまったおりの話である。良相が閻魔(えんま)大王のもとに赴くと、大王の隣には篁がおり、「この人は心根のまっすぐな人です。自分に免じて助けてあげてください」と取りなしてくれたのだ。

 死の淵(ふち)から帰還できた良相は後日、参議として閣議に出席した篁に、あのときのやりとりをただした。それに対し、篁は自分が若い官僚だったころ、失敗を犯したのに良相がかばってくれた恩を返したと説明し、「しかし、決して他言はしないよう」とも言い添えたという。

 これが、小野篁は昼間は朝廷に、夜は閻魔庁に出仕したとする「冥官伝説」である。篁の死後、それほどたたないうちに、この伝説はできあがっていた。なぜだろうか。

 「平安時代の人々にとって、現世と来世を行き来し、亡き親族と再会するのは夢だった。権力に逆らって配流されたものの、よみがえって大臣にまで出世した篁は、冥界の役人にもふさわしい存在と受け止められたのではないか」

 平安人の精神生活を研究している中村修也・文教大教授は、このように考えている。

 ●「野狂」と呼ばれるパッション

 京都市東山区にある六道珍皇寺(ろくどうちんこうじ)には、篁が冥界との行き来に使ったという井戸が残されている。そして北区紫野には、「篁の墓」が存在する。小野氏本貫(ほんがん)の地の小野郷(滋賀県大津市小野)には「小野篁神社」があり、本殿は国の重要文化財に指定されている。篁に対する人々の篤い信仰が伝わってくるようだ。

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