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「ついに自分の番。生ききりたい」がんで余命数カ月の僧医 緩和ケアに宗教を

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「ついに自分の番。生ききりたい」がんで余命数カ月の僧医 緩和ケアに宗教を

がんの体を押して護摩供養に臨む田中雅博・西明寺住職(手前)=7月5日、栃木県益子町

 父が60歳で亡くなり、センターを退職。住職になるため、大正大に編入学して大学院に進み、寺に戻ってすぐの平成2年、境内に普門院診療所を建てた。

 在学中の昭和60年ごろ、仏教界では宗派を超えてホスピスに関与する僧侶が現れはじめた。自らも僧侶仲間とともに、がん患者の家族から悩みを聞く活動をした先駆者の一人。医療現場に僧侶が赴くのとは逆に、医療を寺院に取り戻そうと試みた。

 かつて寺院には、施薬院や療病院と呼ばれる医療施設が置かれ、医術に精通する僧医が患者の治療にあたっていた。そうした歴史が念頭にあったという。

■般若心経を糧に

 平成14年以降、ローマ教皇庁に4度招かれ、緩和ケアなどに関する国際会議で仏教者の立場から講演した。キリスト教圏では、生死や命の意味といった人間の根源的な苦痛に対する「スピリチュアルケア」の専門家を、宗教者から育てていた。

 「世界に誇る日本の医療で、唯一の欠陥は宗教者がいないこと。病院がスピリチュアルケアの専門家を雇える仕組みが必要だ」

 傾聴を通じて患者の苦悩を和らげる「臨床宗教師」が誕生したのは、3年前。時代が追いついてきた矢先に、寿命が迫ってきた。

 抗がん剤の副作用で手足はしびれ、日に日に筋力も弱まる。本堂まで126段の石段を上り下りするのも辛くなった。それでも、毎月第一日曜には西明寺住職として、護摩供養などで参拝者に教えを説く。

 よりどころにする般若心経は「五(ご)蘊(うん)皆(かい)空(くう)」を説いている。自分に執着しない、という生き方だ。般若心経に関する本を執筆し、自分の理想とする医療を後世に託すことが、いまの生きる希望になっている。

 「死が近づくと思うようにいかないかもしれない。辛さも出てくる。でも、残りの時間を有効に使って、生き切りたい」

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