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【石野伸子の読み直し浪花女】川端康成の魔界(7)孤・美・悪・醜…ノーベル文学への序章 かなしみ描いた「みづうみ」

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【石野伸子の読み直し浪花女】
川端康成の魔界(7)孤・美・悪・醜…ノーベル文学への序章 かなしみ描いた「みづうみ」

昭和43年、ノーベル賞を受賞した川端康成。孤絶の意識は生涯、作家をとらえて離さなかった

 昨年、長年の研究を「魔界の住人川端康成 その生涯と文学」(上下巻・勉誠出版)をまとめた元賢明女子学院短大教授の森本穫教授によると、川端作品の魔界は4つの要素で成り立っているという。

 (1)孤絶の意識

 (2)美へのあこがれ

 (3)悪あるいは罪の意識

 (4)醜なる自覚

 この4つが初めて出そろったのが「反橋」(そりはし、昭和23=1948=年)とそれに続く連作。いわゆる「住吉」連作で、ここを出発点として、以後20年間にわたり川端文学の最高の連峰をなす諸作品が生み出されたという。

 「魔界」という言葉が初めて作中に登場する「舞姫」、父の愛人と通じ、その娘とも関係を結んで愛欲の世界をさまよう「千羽鶴」、孤独の中で生きる男が美しい女への妄執を募らせる「みづうみ」、息子の嫁への道ならぬ思いにとらわれる「山の音」、薬で眠らせた若い娘と一夜を過ごす老人の秘密クラブを描いた「眠れる美女」。

 いずれも魔界をさまよわずにおれない人間の「かなしみ」を描いた作品ばかり。ノーベル文学賞へとつながる戦後の川端の華々しい活躍を支えた名作だ。

 昭和43年12月、川端康成は日本人として初めてとなるノーベル文学賞を受賞した。授賞式では「美しい日本の私-その序説」と題した原稿を読み上げた。そこで日本の伝統的精神に根ざした自身の芸術論を展開し、「魔界」に言及する。

 「仏界入り易く、魔界入り難し」

 一休の書にこと寄せて語った魔界。先の著書で森本さんは川端の覚悟を強調する。

 「一休は生涯に2度も自殺を企て、女色の世界にも溺れ破天荒な行動で世人を驚かせた。真の芸術家はたとえ我が命を縮め、我が身を死の危険にさらしても、よりよき芸術の創造を求める。そのような魔界入り難しの峻烈苛烈な芸術の道を、川端は運命の必然と呼んだ。(記念講演は)齢70に達した自身の文学に賭ける不退転の覚悟を語ったのです」

 その川端の魔界文学の出発点となったのが「住吉」連作。そして最も深く沈みこんだのが「みづうみ」だと分析する。「住吉」連作の主人公・行平は、「みづうみ」の主人公・銀平につながっているとする。

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